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夢追い浪人の途中下車

今までここに来た人:
今ここにいる人:

「神頼みで人捜し」
始まりの町にて2

はーとあたっく・ぶれいく

 ←復習 →暗黒の囁き


 一試合終えて、ロビーに戻ってくる。
 さて、今度は誰かの試合を見て見取り稽古と行きたいところだが……何か良いのないかね?
 リカルドもあれから来てない様だし、アルドラは俺達に魔法を教える以外に闘技場を使わない。
 う~む、どうしたものか……大体参考になりそうな試合は全部見てしまったしな……

「は~い、今回のトトカルチョはスバル選手に賭けた人の勝ちでした!」
「か~っ! あいつがナイフ使ってるの見たことねえから、負けると思ってたのによ~……」
「バッカ、あいつの本業は弓師だろ? 普通剣よりもナイフの方を使いこんでるに決まってるだろうが」

 ロビーの喧騒が、耳に入ってくる。
 成程ね、弓を使っているとそう言う反応になるのか。
 実際、弓を扱ってるときは剣よりもナイフの方が取り回しが良いことが多い。
 何しろ、それを使う時は弓じゃ間に合わないくらい近づかれたってことなんだからな。
 そうなったとき、剣よりも更に素早く振れる短剣の方が攻撃を防ぎやすかったりするのだ。
 ただ、俺の場合は短剣じゃなくて、その場で持っている矢に気を通して使ってるけど。
 もちろん、ちゃんとナイフを使った方が使う気の量も少なくて済むが、矢を撃った直後でなければ右手には矢が握られている。
 その時、ナイフに持ち替えている時間なんてありはしないのだ。
 ……それにしても、俺を使って賭け事なんてやってるのかよ。
 道理で普段見ない冒険者達が多いはずだ。
 倍率は……俺が三倍で相手が十倍だったのか。
 と言うことは、Aランクでは俺はほぼ負けないと思われているのだろう。
 普段使っていないナイフでも倍率がこの程度と言うことは、冒険者の間でも一定の評価をもらえてるという意味だしな。
 そうだ、折角だし、冒険者の間で俺がどう思われているのか聞いてみよう。
 え~っと、うん。
 こうなったら、即席で魔法を作ってしまおう。
 冒険者達の周りにこっそり耳を置くような形を想像して……

「“告げ口の語り部スニークス・ヒアリー”」

 俺が魔法を離れたところで展開すると、冒険者達の声が耳元にとどいてきた。
 さて、いったいどんな話が聞けるかな?

「今日のスバルさんも凄かったね~」
「そうそう! 静かなんだけど、すごく緊張感があった!」
「いいな~ アダーラ、確かスバルさんと一緒に住んでるんだよね~」

 ……聞かんかったことにしよう。
 どうやら、アダーラの同僚の間で人気があるのは確からしい。

「それにしても……今回のスバル君は静かだったわね」
「そうねえ……いつもみたいに動いて翻弄するんじゃなくて、相手を誘いこんで攻めてたわね……あんな戦い方も出来るのね」

 ふむ、普段俺は動き回って相手の隙を作っているように思われているのか。
 確かに、それは俺が弓を使う時にやることの一つだ。
 第一、闘技場で弓を使って一人戦うとなると、どうしてもそうなる。
 後を取られないように、相手を常に正面に置くとなると、その場で立ち止まっている訳にはいかないのだ。

「なあ、お前ならあれとどう戦う?」
「そうだな……少なくとも、弓を使われるよりはまだ近づいた方が良いだろうな」
「それに異論はないが、近づいてもこれだぞ?」
「確かに。だが、こいつは随分と慎重だからな。攻め込んでくるのは相手の癖を掴んでからだ。なら、その前に畳み掛ける」

 ほう……俺を仮想敵にしている奴も居るのか。
 そうそう、俺が欲しかったのはこういう意見だ。
 どれ、もっと深く聞いてみよう。

「畳み掛けるって……そう簡単に崩せる奴さんでもないだろう」
「そうでもない。お前、あいつが負けた試合を見たことあるか?」
「何度かあるが、それがどうした?」
「あいつが負けたとき、大体が相手の力に押されて負けるんだよ。だから、避けられない状態で力押ししてしまえば良い」
「避けられない状況か……つまり、奴さんの脚を封じるってことか」
「そう言うことだ。もっとも、これはあいつも重々承知の部分だろうがな」

 ……研究されてるな。
 確かに、俺が負ける時はほぼそれだ。
 避けられない大火力を、俺はほぼ捌けない。
 師匠なら何が飛んでこようとそれを力でねじ伏せられるが、俺にそんな力は無い。
 だから、俺に必要なのはそれをさせない立ち回りだ。
 しかし、未知の相手にそれが通用するかと言われれば、そうもいかないんだよな……
 十分に警戒してても、撃たれる時は撃たれるし……そっち方面の訓練もそろそろ必要か……

「“造形固定メモリア・ファイノメイナ”!」
「は……?」

 突然の声にその方を向くと、そこには白い光の線で作られた魔法陣が浮かんでいた。
 その向こう側には、亜麻色の髪の見知った顔が立っている。
 服装は見慣れた白衣姿では無く、白いブラウスの上に淡い水色の薄手のジャケットを羽織り、タイトなブルーのズボンを穿いていた。
 ……いや、白衣や探検用の服装からは分からんかったが、思った以上に細いな。
 服装自体が細く見せているのもあるのだろうが、本当にモデルみたいだ。
 この前白のワンピースを着ていた時は少し慣れない格好をした感じだったが、そんな背伸びをしなくても十分お洒落に見える。

「ふっふっふ~……盗み聞きは感心しないな~ 相変わらず訓練の虫だね~、スバル君は」

 アルドラはホクホク顔でそう言いながら、俺を見て笑う。
 これを使ったってことは、彼女の知らない種類の魔法だったのだろう。
 思わぬところで新しい魔法が手に入って、それが嬉しいようだ。
 ……いやいやいや、何で居るんだよ、アンタ。

「おい、論文はどうした、アルドラ?」
「ちょっと休憩~ スバル君ここに居るんじゃないかと思って~」

 休憩って、あのなぁ……
 まあ、昨日帰って来たばかりなんだし、一日くらい休みがあっても良いんだろう。
 ……そう考えると、逆に俺の方に修行中毒の疑いが掛かるな。
 ふむ、俺も今日はこのくらいにして、体を休めるとしよう。
 確認しておきたいことは、確認できたしな。

「んじゃ、どっか飯でも食いに行くか?」
「いいね~ もうすぐお昼だし~、この前の調査についても話をまとめておきたかったからね~」

 呑気にそう話すアルドラに、思わず苦笑いが出る。
 人のことを訓練の虫と言っておきながら、自分だって十分に仕事の虫じゃないか。
 まあ、これはお互い様だし、口には出さんどこう。

「えへへ~、お互い様だね~」

 と思ったら、アルドラはニコニコと嬉しそうにそう言って笑った。
 ……そうだった。サーザの現身になったから、こっちの考えは読まれるんだった。
 はぁ……お揃いの服でも着ている訳じゃあるまいし、ワーカーホリックがお揃いで喜ぶんじゃないよ、全く。
 ええい、人がこっ恥ずかしくなる台詞で可愛らしく笑いおって。

「ふふふ~ それじゃ~、早く行こっか~」

 そんな俺の思考を読み取ったのか、アルドラは満足げに笑みを深めた。
 くっ、全力で俺の思考を読みに来てやがる。
 ……もう考えるのをやめてギリギリまで受け入れよう。
 下手なことを考えると、ドツボにはまる。

「……そうだな。食べたいものはあるか?」
「今日はパスタが良いかな~ あ~! そう言えばこの前良いお店見つけたんだ~!」
「んじゃ、そこ行くか」

 余程楽しみだったのか少し早足で歩くアルドラの後ろを、遅れないようについて行く。
 闘技場のある通りを少し歩き、そこからすぐにぶつかる大通りを進む。
 う~む、アルドラの普段着のセンスから考えると、かなり洒落た店に行きそうだな。
 今の俺の服装だと、少々野暮ったい感じがする。
 いや、むしろ俺本人がそもそもお上品な場所に向かなさそうな気がする。
 俺、路地裏の小さな定食屋に入るくらいでちょうど良いんだがなぁ……
 その点、アダーラは姉とは対照的にそう言ったところによく行ってそうだ。

「ん?」

 そう思っていると、何やら妙なものを発見した。
 何かと言えば、ふわふわと宙を浮いているガラス玉の様なものがあったのだ。

「なあ、あれは何なんだ?」
「あ~、あれは記録石の子機だよ~」
「記録石の子機?」
「そ~そ~ これね~、映したものを親機に送って~、そこで映像を保存できるんだよ~ 町中でしか活動できないんだけどね~ それに~、細かい操作が難しいから~、普段はこんな大通りくらいにしか来ないんだよ~」

 ガラス玉の様な子機は、大通りをゆっくりと動いて行く。
 誰もそれを気にしていないことから、それが日常的に行われていることが分かる。
 今まで人混みを避けるために裏通りばっかり通ってたから、ちっとも気付かなかったな。

「親機ってどこにあるんだ?」
「お役所の中心にあるんだよ~ すっごく大きな水晶みたいなのがあって~、映したものの一コマの映像を紙に写すことが出来るんだよ~」
「と言うことは、こいつの画像は自動的に役所を通るってことか」
「そう言うこと~ 大量に印刷出来るのってこれしかないから~、みんなに配られる新聞みたいなものは全部それで印刷するんだよ~」

 つまり、早い話がこれは印刷機能付きの監視カメラだということだ。
 どうしても役所を通るから、その画像の検閲も簡単に出来るし、警邏兵にも迅速に対応できる。
 それに、住民に対する重要なお知らせなんかは、掲示板に張るだけでは無く、各家庭に届ける必要がある。
 それを加味し、実行できる装置が巨大であることを考えると、役所にあってしかるべきと言う訳だ。
 ふむ……そう考えると、少なくともこの町の識字率というものはかなり高いらしい。
 でないと、わざわざ各家庭にお知らせを配ったりはしまい。
 もし識字率が低かったら、必ずそう言った情報を口で伝える人間が居るはずなのだが、そう言う輩も見た覚えはないしな。

「あ~、ここここ~!」

 そう言ってアルドラが指差したのは、もう見るからにお洒落なオープンテラスのレストランだった。
 予想的中、大通りを長々と歩いている時点で察しがついたわ。
 大通りって、本当に小洒落た店ばかり並んでるからな……だがまあ、そのお陰で冒険者の格好でも躊躇なく入れる。
 店内を見てみると、デザインの良い服を着たこの街の住人の中に、機能性を重視した服装の冒険者がちらほら混じっていた。
 この町に来たばかりの冒険者はどこにどんな店があるかなんて知りようもないから、こういった店にどうしても寄ることになるのだ。
 店側もそれを最初から考慮しているのだろう、店のカウンターの奥にはかさ張ってしまう剣や杖などの道具を預けておくスペースがあった。

「折角だし~、外の席に座ろ~?」
「ああ、天気も良いしな」

 遊園地ではしゃぐ子供の様に笑うアルドラに促されて席に座ると、店員がメニューを持ってくる。
 ふむ、今何の案内も無しに席に着いたが、この町ではそう言う感じの物らしい。
 外には順番待ちのための椅子が並んでいるが、空いている時は基本的に空いている席に座れば良いようだ。
 メニューを開いて、真っ先に値段を見る。
 ……ふ~む、パスタ一皿一アルグ五十アイスか……つまり、小銀貨一枚、大銅貨五枚。
 金貨一枚が日本円で大体六万円で、金・大銀・小銀・大銅・小銅の順にゼロが一つずつ取れていく。
 と言うことは、このパスタ一皿は日本円にして九百円と言うことになる。
 こういった店ならば、まあまあ安い部類の店ではあるだろう。
 しかも、カフェではなくレストランと言う名前の通り、内容もピザやパスタだけでなくステーキ類などのがっつり食べる人向けの料理もある。
 客に冒険者が居ることを想定して、それを狙ったものなのだろう。
 実際テラスで他の客の料理を見ていると、冒険者達はハンバーグやステーキなど、かなり重めの食事をしている。
 ……そうだな、たまにはがっつりステーキでも食べるとしよう。
 スープとパンのセットで約千五百円と割高だが、今の俺にはあまり痛手にはならないしな。
 俺が注文内容を決めて顔を上げると、アルドラがどこか楽しそうに俺を見ていた。

「決まった~? それじゃあ、店員さん呼ぶね~」

 アルドラは店員を呼ぶと、俺の分の注文まで全部伝えた。
 言わなくても伝わるって、こういう時は便利だな。
 そんなことを思いながら、俺は大通りを眺める。
 大通りは多くの人間や馬車が行きかっており、途切れる様子が無い。
 ……そういや、中世のヨーロッパの街って、近くの道路に汚物を捨ててたんだっけ。
 そもそも、外に捨てているくらいなのだから、中世ヨーロッパには一般家庭にトイレが無い。
 一回何かで知ってネットで調べたが、想像を絶する悲惨さでそっとブラウザを閉じたレベルだ。
 何故食事前にそんなことを思い出したのかと言えば、俺が今居る道路に面したテラスでは、全くそんな臭いがしないからだ。
 だが、この町では一般市民であるスピカの家にも普通に個室トイレがある。
 そして、どういうことになっているのかは知らないのだが、不思議なほどに臭いが無いのだ。
 どうなっているのか、非常に気になる。
 うぐぐ……自分で思い出しておいてなんだが、食事前に思い出すもんじゃなかったな。

「お待たせ致しました、こちら食前のお飲み物でございます」

 そう考え事に没頭していると、店員が飲みものを持ってきたようだ。
 そんなサービスもあるのか。
 よし、不浄な頭の中を飲み物で洗い流すとしよう。
 そう思って顔を上げたその時であった。

「……マジか」

 俺の口から、そんな言葉が零れだす。
 だって、目の前に置かれたのはどう見たって一人では飲み干すのに苦労する大きさの物。
 その見た目にも美しい透き通ったオレンジ色のジュースには、これ見よがしに二本のピンク色のガラスのストローがハート型に曲げられて鎮座している。
 ……いやいやいや、これどう見たってカップル用のジュースですよね?
 絶対サービスじゃ出ないだろ、これ。

「では、ごゆっくりお楽しみください」

 いかにも若い女の子にモテそうなウェイターが、微笑ましいものを見るような目で穏やかに笑って立ち去って行く。
 ちょっとー! そんな爽やかスマイルでこんなの置いてかれても困るんですけどー!

「えへへ~……びっくりした?」

 俺が混乱していると、頬をほのかに赤く染めたアルドラがそんなことを言い出した。
 ひょっとしなくてもこれを頼んだのは彼女なのだろう。

「し、知ってて頼んだのか?」
「そうだよ~♪ 困惑してるスバル君、可愛かったよ~♪」
「あれか、この前の俺の寝起きの悪戯の仕返しか!?」
「あったり~♪ 私だって~、やるときはやるんだよ~?」

 そう言ってめっちゃ楽しそうににこにこと笑うアルドラさん。
 ええい、一人だけ楽しそうにしおって!
 こちとら顔から火を噴きそうなくらい恥ずかしいんだぞ!

「じゃあ~、飲もっか♪」

 おおう、アルドラさん躊躇なく飲み始めましたよ……
 そう思うや否や、アルドラさんは少しだけ飲んでこっちを見た。

「ほらほら~、スバル君も~」
「お、おう……」

 少しふくれっ面の彼女に促されて、俺も反対側のストローに口をつける。
 あの、貴女今日やけにぐいぐい来てませんか?
 ちょっと頬にキスしただけで顔を真っ赤にして慌てだす貴女はどこに行っちゃったの?

「だってもう知られちゃったもんね~ だったら~、ぐいぐい行かなきゃ損でしょ~? みんな積極的だし~」

 俺の心の中を読んで、アルドラはそう答えた。
 むしろあれで隠しているつもりだったのかとか、絶対あのむっつり女神に何か吹き込まれただろうとかいろいろ言いたいことはある。
 だが、それよりもどうしてこんな天下の往来でこんなバカップルじみたことが出来るのか!?

「人前に立つのは慣れてるからね~」

 ……そうでした、気軽に付き合ってるから忘れがちだが、この人学会で発表する人だった。
 そりゃあ人前に立つことに慣れてますわ。
 俺はと言えば甘いジュースを飲んでいるはずなのに、全く味が分からん。

「うふふ~♪」

 前を向くと、そこにはばっちりアルドラさんの顔がある。
 よく見ると顔は結構赤くなっていて、恥ずかしさが無いわけではなさそうだ。
 それでも、アルドラは両手で頬杖を突き、楽しそうに俺を見つめながらジュースを飲んでいる。
 な、何故だ……

「な、なあ……いくら人前に立つのが慣れてるからって、恥ずかしくないのか?」
「恥ずかしいけど~……それ以上に、楽しくて嬉しいもん」

 なんとか絞りだした俺の質問に、アルドラは少し照れたように笑いながらそう返してきた。
 それと同時に、俺の頭がかくんと下を向く。
 ……あかん……この人、精神的に攻めてきてる……正直、破壊力抜群です。
 安易なエロには危機感を感じるが、純粋に好意だけをぶつけられるのがここまで強力だとは……
 い、いかん、俺にはやるべきことがある、まだ色恋に身を任せるべきじゃない。

「任せちゃって良いと思うけどな~ ここに居ても捜せるんでしょ~?」

 俺の考えを遮るように、アルドラは甘い囁きを掛けてくる。
 確かに、その通りなのだ。
 ギルドに依頼して、このあたりで見つからなければ更に他の支部と連携を取ってもらって範囲を広げれば良い。
 金は掛かるが、一度足取りを掴んでしまえば追えないことはないはずなのだ。
 だが、俺は何となくだがそうはいかない様な気がする。
 確信がある訳じゃないが、どういう訳だかそんな気がするのだ。

「ふ~ん……そっか~」

 そんなことを考えていると、アルドラがそう呟いた。
 さぞかし落胆しているのだろうと思って顔を上げると、予想に反して彼女は慈しむように微笑んでいた。
 あ、あれ……? この人、どうしてこんなに余裕なんだ?

「もっと、がっかりするかと思ったんだけどな?」
「だって~、焦っても上手くいかないもんね~ それに~、あの二人には悪いけど~、いざとなったら私は追い掛けられるからね~」

 優しく微笑んだまま、アルドラはそう答える。
 ああ、そうか。それがあるからこその余裕か。
 他の二人にはそれが出来ない訳だし、だからこそ焦りがあるのだろう。
 俺はこの町にとどまらないことを公言している訳だしな。
 ……もしかしたら、それを分かってるからこそ、アダーラを鍛えて欲しいと言っているのかもしれない。
 アダーラと二人で、スピカを守りながら俺の後を追うために。
 考えすぎかもしれないが、アルドラはこの前の探索で俺に命を掛けた。
 その可能性がゼロだとは、決して言い切れないのだ。

「……ん?」

 ストローが空気を吸いあげ、ジュースが空になったことを知らせる。
 うおっ、何だかんだで全部飲み切ってしまったぞ。
 アルドラは時折口を放して俺に喋りかけていたが、こっちは考え事が多かったせいでちっとも残量を見てなかった。
 て言うか、俺達飲み始めてからノンストップで、少なくともアルドラは俺の顔をずっと見つめていたことにならないか、これ?
 ……考えるのをやめよう。これ以上は、恥ずかしくて悶え死にそうだ。

「お待たせ致しました。ステーキセットとスパゲッティ・アマトリチャーナでございます」

 そんな中、先程のウェイターが料理を持ってくる。
 聞きなれないアマトリチャーナと言う単語にスパゲッティを見ると、どうやらトマトソースのスパゲッティの様だった。
 アルドラが食べられるってことは、中に唐辛子の様な辛いものはほぼ含まれていないと思っていいだろう。
 しばらくパスタを観察していると、ウェイターが空のグラスに気が付き、笑みを浮かべた。

「食後にお替りをお持ちしましょうか? サービス致しますよ?」

 うおぉい! イケメンスマイルでなに言ってくれちゃってんのこのウェイター!?
 こういうのを勝手にサービスにするんじゃない!

「良いんですか~?」
「はい、当店のオーナーからの指示ですので」

 めっちゃ頼む気満々だよアルドラさん!
 て言うか、オーナー思いっきり俺達のことを見てたんかい!
 どこだ、どこから出歯亀なんてしてるんだ!?

「それじゃあ~、お願いしま~す」
「かしこまりました」

 本当に頼んじゃったよ!?
 と言うことは、俺は食後にまたあれをやる羽目になるのか……マジか……

「そうしていますが、貴方も結構乗り気のように見えましたよ?」

 俺が両手で頭を抱えて天を仰いでいると、ウェイターが俺の耳元でそう囁き、意味ありげな笑顔で去っていく。
 ……はい、否定はしません。
 ぶっちゃけアルドラみたいな美人さんとこんな事するのは役得かな、何て言う考えもございました。
 ただ、恥ずかしさの方が遥かに勝っていただけです。

「うふふ~♪ 今度はもっとゆっくり飲もうね~♪」

 そんな俺の考えを見透かして、アルドラはそう言って楽しそうに笑った。
 ……もうこの場では、アルドラには勝てん。
 とりあえず、料理が冷める前に食べよう。

「あ~、スバル君、この後時間ある~?」

 俺がフォークとナイフを手に取ったその時、アルドラがそんなことを言い始める。
 ……いったい何の用だろうか?

「今日はもう修行は終わりにする予定だったが……」
「それじゃあ~、この後買い物に行こ~? スバル君、あんまりお洋服とか持ってないみたいだし~」

 アルドラの提案に、俺はふと普段の生活を見直す。
 そういや、俺普段の着替えが三着ずつくらいしかないな。
 毎日洗濯をするのは結構手間が掛かるし、雨が降り続くと生乾きで服を着ることもあった。
 ふむ……いい加減、少しは服も買い足しておいた方が良いか。
 彼女なら、少なくとも俺が選ぶよりは良いセンスの服を選んでくれることだろう。

「そうだな。ここらで少し買っておくか」
「おっけ~♪」

 アルドラは俺の返事を聞くと、自分の料理を食べ始める。
 ……食べる速度が少し早い。
 食後の楽しみがあるから、それで食が進んでいるのだろう。
 よし、もう考えるのをやめよう。
 なんだかこの先、こっち方面でも大変なことになりそうな気がするし。

 その後、俺達はスピカを迎えに行く夕刻まで一緒に行動をし続けることになった。
 その間もアルドラはぐいぐい攻めてきて、傍から見れば完全なるバカップルであったであろうことは想像に難くない。
 まあ、これはこれで俺としても役得ではあるから良しとしよう。
 開き直ってしまえば、その方が楽だ。





 ……と、思っていたのだが。

「姉さん? これ、どういうことですか?」
「え、えっと~……それは~……」

 翌日、朝起きるとアルドラがアダーラに何やら問い詰められていた。
 底冷えするような声で問いかけているアダーラの手には、何やら紙が握られている。
 文字が並べられているその様子から、どうやら新聞の様だ。
 俺が普段読んでいる、この町で発行されている新聞であり、号外という訳ではなさそうだ。
 朝食後に読もうと思っていたのだが、それより先にアダーラが何か気になる記事を見つけたらしい。

「……何があったんだ?」
「おはようございます、スバルさん。ちょっとこれ見てください」

 アダーラは俺に向けて、手にした新聞を差し出した。
 ん~……なになに?
 とりあえず一面は……盗賊問題か。
 やっぱそれなりの都市になってくると、周囲の街道に湧いて出てくるようだ。

「何で読んで欲しい記事を出したのに、わざわざ一面に戻ってるんですか! スポーツ記事を読んでください!」

 ……なんか怒られたぞ……それも、結構な剣幕で。
 しかし、スポーツ記事ね……何でスポーツ関係でアルドラが……

『有名人の逢引現場! 新鋭冒険者スバル・イトカワ、有名考古学者とデートを楽しむ』

 ……マジか。
 危うく新聞を取り落としそうになるところを、何とか抑えて内容を読む。
 そこには、昨日俺がアルドラと食事をしていた件や、その後買い物に行ったことまで事細かに書かれていた。
 おまけに、俺がアルドラとあのジュースを二人で飲んでいる写真の様なものまで掲載されていたのだ。
 こんな記事が書かれるほど俺は有名なのか……恐ろしい……闘技場の宣伝効果って、こんなにも強力なのか……と言うか、いくらなんでも記事になるの早過ぎません?
 しかも、写真があるってことは役所の記録石がそれを撮ってたってことだよな? お役所がこんなゴシップ記事を書いてんじゃないよ、全く。

「さて、この抜け駆け……どういう訳か説明してもらいましょうか、姉さん?」
「あ、あの~……その~……ね~?」

 ……そんな呑気なこと言ってる場合じゃないな。
 しどろもどろになっているアルドラへの詰問が終われば、今度は間違いなく俺に矛先が飛んでくる。
 よし、ささっと朝飯作って、修行に行くとしよう。
 と思っていたら、かかとに何か当たる感触の後、がっしりと後ろから両肩を鷲掴みにされた。

「逃がさねえですよ、スバル? 私が仕事している間に、随分楽しんだみてえじゃねえですか?」

 ……オゥ、シット。
 既にスピカもアダーラから事情を聞かされていたようだ。
 つまり、こっちは俺の担当と言うことになる。

「さて……スバルなら、アルドラだけ特別扱いってことはねえですよね?」

 スピカの両手が肩から首を伝って俺の頬を掴み、寒気がするほど優しく撫でてくる。
 拙い、スピカさんの背後に嫉妬の炎が見える。
 ここで放置しようものなら、何をされるか分かったもんじゃない。
 ……こりゃ、今夜は俺に安息の時間はないな……
 ホント、有名になんてなるもんじゃねえ。
 俺はつくづくそう思うのだった。

「にしし♪ 修羅場♪ 修羅場♪」

 ……ちっと黙ってろ、むっつり女神。





* * * * *

 今回は速攻でもう一話。

 ……何だろう、アルドラさん、これだと完全にメインヒロイン食っちゃってるよね。
 正直、今のところ目が見えないって言うのが最大のハンデですからね。
 現状、アルドラさんの方が動かしやすいんです。

 では、ご意見ご感想お待ちしております。
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