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夢追い浪人の途中下車

今までここに来た人:
今ここにいる人:

「神頼みで人捜し」
始まりの町にて2

教官役の特訓

 ←暗黒の囁き →自主トレ

 ただの食事から始まった買い物が新聞に取り上げられ、スピカからきつい詰問を受けたその日。
 俺はいつも通りに朝食の支度をし、スピカを職場に送って家に戻ってきた。
 机の上には、騒ぎの火種となった新聞が置かれている。
 あ~あ、ただ食事をするだけだったのが、どうしてこうなった……
 全く、ただ一緒に食事をして買い物をしただけだってのに……よく考えなくても、傍目から見りゃデートだよな、こりゃ。
 しかもこんな幸せそうに笑うアルドラを見て、これがデートじゃないと言われても誰も信じまい。
 まあ、そんなことはどうでもいい。
 とりあえず、今日も闘技場に行っておこう。
 アダーラに教えること、もう少し確認しておきたいしな。
 そう思って、俺は出かけることを伝えるためにアルドラが論文を書いている部屋へと向かう。
 アルドラさん、結局遺跡探索が終わった後も妹共々ここに居付いてしまっているが、本来の家は大丈夫なんですかねえ?
 そんなことを考えながら、部屋の扉をノックする。

「入るぞ」
「どうぞ~」

 中から返事が聞こえてきたのを確認して、部屋の中に入る。
 部屋の床には資料が散乱しており、切り取られたスケッチブックのページが壁の至る所に張り付けられていた。
 そのあまりに雑然とした部屋の様子にため息をつきながら机の方を見ると、亜麻色の長い髪の女がせっせと論文を書いているのが見えた。
 ……あれ、一人足りないな?

「ん? サーザは?」
「あ~、サーザ様なら~、しばらく天界にあいさつ回りをしなきゃいけなくなったから~、一か月ぐらい留守にするんだって~」
「……そうか」

 アルドラから帰ってきた返事に、俺はそう答えた。
 ふむ、サーザも元の立場が立場だ、今居る神としても決して無視できる存在では無いはずだ。
 それもあのアーリアルの保護下になるとなれば、そう言ったあいさつ回りをする人数も多いだろう。

「それで~、今日はどうするの~?」

 そんなことを考えていると、アルドラから先に質問が飛んできた。
 ちょうど今それについて言及しようと思っていたところだし、ちょうど良い。

「五日後、アダーラの特訓をすることになってるだろ? その準備だよ」
「じゃあ~、私もついて行こっかな~」

 俺の言葉に、アルドラは大きく伸びをしながらそう口にする。
 え、ついてくるのか?
 俺としては、そんな調子で論文が遅れやしないか非常に心配なんですが?

「論文、進捗はどうなんだ?」
「今回は凄く早いよ~ だって~、資料要らないんだもの~」

 アルドラはそう言いながら机から立ち上がる。
 机の上にはすでに書きあげられた論文の一部が積まれている。
 と言うより、もう大体書き上がっているようにも見えるが……いや、これよく分からんが、めっちゃ早いんじゃないか?

「資料要らないって、じゃあこの床に散らかっている資料は何だ?」
「それね~、昨日サーザ様に確認してもらったんだけど~、あの遺跡に関する情報はまるで無かったんだ~ だから~、私が知ってることだけ書けば良いや~、ってなったんだよ~」
「それ、指摘を受けたりしないのか?」
「たぶん無いんじゃないかな~? だって~、新しい神様を見つけただけでも大発見なんだよ~? それに~、元々全く分かってないものから発表するんだから~、結局は仮説だらけのものになっちゃうしね~」

 成程、そう言うことなら話は分かる。
 自分が調べて分かったことだけ書けばいいのなら、わざわざ資料を探す必要もないし、自分が思うように書ける。
 と言うか、今回の場合アルドラ本人が神様の現身となってしまっているのだ。
 仮説どころか、学者が欲しい答えくらいあっさり出してしまうことだろう。
 まあ、それはさておきだ。

「それは良いんだが、せめて使わない資料はちゃんと片付けておけよな」
「あう~……あ、後でね~」
「今すぐやれ」
「はいぃぃ!!」

 俺がレッドペッパーの小瓶を見せると、アルドラはすごい勢いで資料を片付け始めた。
 はぁ……こうまでせんとやらんのか、こいつは。
 しかし、青ざめるほどトラウマになってるのか、これ。
 う~ん、ここまで来ると何とか克服させてやりたいが、この分じゃ相当な工夫が必要なようだ。

「お、終わったよ~」

 そう思っていると、アルドラが少しびくびくした様子でそう言ってきた。
 ……机の上に集めた資料重ねただけかい。
 しかしまあ、それだけでも何もしないよりは幾分かマシだし、多めに見ておいてやるか。
 それに、手伝ってもらえるんなら俺としても非常にありがたいからな。
 と、言いたいところだが、少しばかり懸念事項がある。

「ところで、昨日あれからちゃんと寝たか? 見たところ、もう随分と仕上げているようにも見えるが?」
「あはは~ 自分の思った通りを書けばいいんだし~、それだけなら小学校の作文と変わんないよ~ もちろん、後で質問されそうなことなんかは確認するけどね~」

 俺の心配もどこ吹く風、アルドラは余裕の表情でそう言って笑った。
 流石は主任研究員と言ったところか、こう言ったところに関しては俺が心配する余地はなさそうだ。
 そう言うことなら、遠慮なく頼んでしまおう。

「そうかい。だったら、少し手伝って欲しいことがあるんだが、良いか?」
「良いよ~」
「それじゃ、出かけるから準備よろしくな」
「おっけ~」

 少し嬉しそうに返事をするアルドラにそう言うと、俺も部屋に戻って準備をする。
 そして二人とも準備が終わると、家を出る。

「それで~、今日は何をしたいの~?」

 町を歩きながら、アルドラは俺にそう聞いてくる。
 今日のアルドラは青いジーンズに白いTシャツと、非常に動きやすそうな格好だ。
 どうやら、俺が声を掛けた時点で何をするかと言うのが大体分かっているらしい。
 俺は自分がどういう風に見られているのかに少し苦笑いを浮かべながら、それに答えることにした。

「アダーラは魔法を使えるんだろ? 正直、どれくらいのものか分からんから、まずはその確認をしたいんだが」
「アダーラちゃんの魔法はほとんど補助的な魔法ばっかりだよ~ だから~、本当に危ないのは魔法が使える相手の時だね~」

 アルドラは少し思い出すような様子で、そう口にする。
 ふむ……補助的な魔法ってことは、相手を捕まえたり、近寄れなくさせたりってことか?
 魔法が使える相手の時に危険と言うことは、まずそう言うことだろう。
 確かに防御に使える魔法を教えるよりは、確実に逃げられるような魔法を教えた方が安全は安全だ。
 だがそこでまだ止まっていると言うことは、十分に教える時間がなかなか取れていないと言うところか。
 それでも、魔法に対する対策も一応しているとは思うんだが……

「どういう対策をしてるんだ?」
「すぐに逃げられるように~、逃げ脚が早くなる魔法は教えてるけど~……ちょっぴり不安だね~」

 俺の質問に、アルドラは形の良い眉をハの字に曲げながらそう答えた。
 う~む、確かに町から外に出ないことを考えると、それでも十分なのかもしれない。
 ただ、魔法によっては逃げられなくなる状況が出来ることを考えると、少し厳しいところだ。

「なら、俺が教えるのはその部分で良いな」
「どうするの~?」
「これに関しては、最初から考えていたことだ。だが、まずは俺がそれを出来るか確認したい」
「じゃあ~、私はスバル君に魔法を撃てば良いんだね~」
「そう言うこった」

 二人でそう話しながら、俺達は闘技場に向かう。
 そして、中に入って台座に銅のコインをはめ、控室がコロッセオの舞台へと変わるとアルドラと相対した。

「それじゃあいっくよ~ “呑界の樹木(アルベリ・オセアノ)”!」
「うおおおおっ!?」

 下からぞわぞわとした風が上がってくると同時に、俺は全力で上に跳びあがった。
 下を見ると、俺のいた場所を太い木の蔓が覆い尽くしていた。
 冗談じゃない、あんなの喰らったら一瞬で挽き肉になってしまう。
 着地してアルドラの方を見てみると、彼女はきょとんとした表情で首をかしげていた。

「あれ~?」
「いきなりそんな大魔法使う奴があるか、バカタレ! 大体護身用だっつってんのに、町中でそんなの使ってる奴が居る訳ねえだろうが!」
「そうかな~? 森とかに行くんだったら~、使われてもおかしくないけどな~?」
「だとしても、そもそも俺が確認せにゃならんのに、最初からそんな大技はねえだろうが!」
「そっか~……スバル君だったら~、何とか出来そうだと思ったんだけどな~」

 アルドラはそう言いながら首をかしげる。
 こいつ、俺が経験的には初級者クラスだって言うの忘れてんじゃねえだろうな……
 いくら俺がそれなりの修羅場をくぐってきた経験があると言っても、それは槍ヶ岳の補助があって初めてできたことだ。
 こういう魔法を真正面からガードしろ、何て言うのは俺にはまだ無理な話だ。
 とは言うものの、使われてもおかしくないと言うことは、これくらいの魔法が俺が思っているよりも当たり前に使われている可能性があると言うこと。
 いずれは、俺もこれを防げるようにはなっておかないとならないだろう。
 だが、今はそんなことを考えるレベルでは無い。

「とにかく、まずは軽めの魔法で頼む」
「おっけ~ それじゃ~、“火蜥蜴の尾(イグニテール)”!」
「せりゃっ!」

 即座に飛んできた炎の鞭を、持っていたカトラスに気を込めて叩き斬る。
 ふわりとした感触と共に炎の鞭が千切れ、溶けるように消えて行った。
 それを見て、アルドラは何か納得したようにうなずいた。

「あ~……スバル君はそうやるんだね~」

 そう口にするアルドラは、どことなく残念そうな様子であった。
 いや、残念そうと言うよりは、少し期待外れと言いたげである。

「ん? 何か違ったか?」
「ん~ん、気で無理やり打ち消す方法は間違ったやり方じゃないよ~ でもね~、他の方法もあるんだよ~」
「へえ、そうなのか」
「そ~だよ~ そもそも~、魔法って何だっけ~?」
「ある一定の空間に存在する魔力を、術式を用いて変換して様々な現象を擬似的に起こすこと、だったな」
「そ~そ~ じゃあ、魔力って何のこと~?」
「確か……あらゆるものに変化する不可視不定形のエネルギーまたは物質のことだったな?」

 俺はアルドラの質問に、教えてもらった通りに答える。
 ……俺としてはいまいち納得できていないが、この世界では魔法や魔力というものはこのように定義されるらしい。
 噛み砕いて言えば、何らかの要因で目に見えない何かが変化するのが魔法の正体で、その目に見えない何かが魔力と言う事だ。
 で、この魔力なるものは術式によって石や氷みたいな物質になったり火や風みたいなエネルギーを伴う現象に変わったりするため、恐らくどちらの性質もあるのだろう、とまあこういう訳だ。
 みんなエネルギーまたは物質であると言うのはどういうことかと疑問に思うかもしれないが、なんとこういう性質のものは俺の元居た世界にもちゃんと存在している。
 実は、光がこれと同じ性質を持っているのだ。
 光というものは、波動の性質をもつものであると同時に、粒子としての性質をもつものであり……などと話し始めると滅茶苦茶ややこしいことになるからこれくらいにしておこう。
 とにかく、この世界にはそんな摩訶不思議なモノがあるらしいと、それくらいしか分かっていない代物なのだ。
 う~む、燃焼という現象がフロギストンという物質が放出されているのではないかというかつての仮説を思い出す話だ。
 ……は? 何でそんな普通なら知らんことを知っているのかだって?
 よし、それならこれだけ言っておこう。
 科学の進歩は、錬金術から始まったのだ、と……後は察しろ。

「そうだね~ そこから考えられる方法は~、現象そのものに干渉する方法と~、もう一つは現象を引き起こす魔力そのものを奪う方法と~、術式をどうにかしちゃう方法だね~」
「……まあ、大体の想像はついた」

 これを想像するには、火炎放射器を用いて想像してみれば楽だ。
 飛んで来る炎は魔法が引き起こす現象、燃料が魔力、火炎放射器自身が術式と言う訳だ。
 つまり物影に隠れてやり過ごすか、何とかして燃料切れを起こさせるか、火炎放射器自体を何とかするかと言う話だ。
 しかし、そうは言っても相手は魔法、実際にたたき壊せるものがある訳でもないし、燃料だって目に見えない。
 となると、そのメカニズムを知らないと防ぎようがないんだが。

「ところで、魔法のメカニズムってどうなってるんだ? 本だといまいち理解できなかったんだが」
「それを説明するには~、魔力がどんな性質を持つかを知る必要があるね~」
「何にでも変わるのに、特定の性質があるのか?」
「そうだよ~ 魔力って~、強い思念に触れることによって変化する性質があるんだ~ だから~、燃えろって思えば燃えるし~、凍れって思えば凍るんだよ~」

 強い思念によって反応する、ね……まあ、魔法を使うのには結構な集中力が要るからそう言うことなんだろうし、実際こうしたいと願えば発現するのだからその通りなのだろう。
 ……もっとも、その説明じゃ魔力が強い思念に触れると言うことがどういうことなのかと言う説明が出来ないのだが、これ以上は話がややこしくなりすぎるから黙っておこう。
 しかし、そう言うことになると一つの疑問が浮かび上がる。

「と言うことは、こうしたいと思えるのならば獣でも魔法は使えるってことか?」
「理論上はね~ でも~、よっぽど強く願わないと変化しない様なものなんだよ~」
「じゃあ、魔獣って言うのはそれだけの知性を持っているってことか?」
「それか~、身体の造り自体が一つの魔法陣みたいになっているってことだね~ どっちにしても~、そんな魔獣自体が珍しいし~、見つけても言葉が通じなかったりだから~、まだ全然調べられてないんだよ~」

 上に立てた人さし指をくるくるとまわしながら、アルドラはそう説明する。
 知能が高い動物は元の世界にもいた訳だし、広義で言えば人間だって動物なのだから獣でも出来るだろう。
 しかし、体そのものが魔法陣として機能すると言うのはどういうものなんだろうか……
 いや、そもそも、どうして魔法陣を使うことで魔力の効率が上がるのか、よく考えたらそれも不明だ。

「だったら魔法陣とか詠唱って言うのはどういうものなんだ? あれを使うより、想像魔法の方が効率が良さそうなものなんだが……」
「スバル君は~、魔法陣を描く時に~、何を考える~?」
「そりゃあ、使う魔法のことだよな?」
「そうだよね~? これが魔法陣とか詠唱の効果なんだよ~」
「……どういうことだ?」
「魔法陣とか詠唱って~、この魔法を使いたいって意思を示すための物なんだ~ だから~、この魔法が使いたいって時にそれを使うってことは~、二人でこの魔法を使いたいって考えたのと同じ意味になるんだよ~」
「それじゃあ、魔法陣を描いてその上で詠唱をすると、三人が同時に詠唱したのと同じ効果になるってことか?」
「そうだよ~ だから~、そうした分だけ早いし~、魔法も安定するんだよ~」

 よく理解できていない俺に、アルドラはそう説明した。
 う~む、これは何に例えれば良いか……ハンコみたいなものか?
 手書きで名前書くよりも、ハンコで一押しすれば一発で名前が書けるとか、そう言った類のものと思えば良いのか……いや、この説明じゃちっと合わないか。
 まあとにかく、魔法陣や詠唱の言葉自身がその魔法を使いたいって言う意思を示していて、その上で自分が使いたい魔法を思い浮かべていると言うことだ。
 それより、まだ分からないことがある。

「じゃあ、術者の魔力の消費って何だ? 願うだけで一定の空間にある魔力を変化させるんなら、自分の魔力なんて使わなくて済むんじゃないのか?」

 次の疑問はこれだ。
 魔法と言うのは自分の手などから発生されるだけでは無く、何もない空間から突然現れたりする。
 で、魔法と言うのは魔力そのものが変化する訳だから、目の前の空間自体に魔力が存在するはずだ。
 だと言うのに、術者本人の魔力も消費されている。
 これまでの説明では、その部分が説明出来ていないのだ。
 その俺の質問の聞いて、アルドラは首を横に振った。

「そうでもないんだ~ ここで魔力のもう一つの性質が関わってくるんだよ~」
「それは?」
「魔力のもう一つの性質はね~、魔力は思念を発したもの、もしくはそれによって変化した魔力にのみ反応するっていう性質があるんだよ~」
「と言うことは、魔法の発生のプロセスは、魔法を使おうとする、思念によって変化した自分の魔力が外の魔力に触れる、外の魔力が変化するってなるな」
「ちょっと違うな~ 発動までの間に~、反応に必要なだけの変化した魔力が集まるプロセスがあるよ~ だから~、大魔法を使う時はいっぱい自分の中の魔力を使わないと~、いつまで経っても反応に必要な魔力が集まらないんだよ~」
「時間を掛けても発生しないのか?」
「それがしないんだ~ 魔力って、拡散する性質もあるからね~ 意思を持った魔力の量が足りないと~、この拡散を抑えきれないんだよ~」

 アルドラの説明を聞いて、俺は少し考える。
 ふむ……これを説明しようとするならば、金属板の熱伝導の実験が分かりやすいか?
 やったことある人もいるかもしれないが、蝋で覆った銅板の端っこに火を当てて、蝋がどのように溶けていくのかを見るあれだ。
 あれを、溶ける蝋が一ヶ所にしかないものと思えば良い。
 熱源である火が魔法の使用者として、熱が使用者が発した魔力、蝋が溶ければ魔法が発動したと考えると言うことだ。
 火が弱すぎれば熱は空気中に放射されてしまって、蝋はいつまで経っても溶けない。
 実際は大気中の魔力が連鎖反応を起こして伝えていくものだから厳密に言えば異なるが、要はこれと同じことが魔法にも言えるのだろう。
 となると、次はその火に該当する部分はどこから来るんだろう?

「もう一つ質問。人間の中の魔力はどこから来るんだ?」
「それは~、人間の身体の気からだよ~」
「気が魔力に変わる?」
「そうだよ~ これね~、つい最近の論文で発表されたんだけど~、気の力を増大させるお薬を飲んだ魔導師さんが~、しばらくしたらいくら魔法を使っても魔力が無くならなかったって言うお話があったんだ~ それを検証したら~、気の力が魔力に変わってる可能性が極めて高いっていう結果が出たんだよ~」

 成程ね……魔導師による実際の事例から考えるのならば、確かにそう考えるのが妥当なのだろう。
 前も、槍ヶ岳が気力を魔力に変える術式があると言っていた訳だし、それも納得できる。
 が、そうなるともう一つ疑問になる点がある。

「じゃあ、気って具体的には何なんだ? それに、魔力が気から変化したものだとすれば、魔導師はもっと気を有効活用できるはず。なのに出来ない。気をよく使う戦士だって、魔法がもっと使えるはず。でも出来ない。これはいったいどういうことだ?」

 アルドラの説明では、これが大きな疑問点になる。
 この説明だと、魔導師だって気をつかった大技が撃ててもおかしくないし、気による大技を使いまくれる戦士が大魔法を使えてもおかしくない。
 ところが、俺は気の総量の方が魔力の総量よりも大きいし、そもそもこの説明ならステータスはMPとSP何かに分かれたりしていない。
 つまり、似たようなものではあるが魔力と気力は全くの別物と言うことになる。
 その質問を聞いた瞬間、アルドラは困り顔で唸り始めた。

「う~ん……これは仮説なんだけどね~ そもそも~、気って生命活動から生まれる活力、つまり生物が持ってるエネルギーのことなんだよね~」
「活力ってことは……やる気でも関係してくるのか?」
「本当にその通りなんだよ~ だから~、この剣で相手を斬ろうって強く思えば~、その切れ味が上がったりするんだよ~ 現象自体は~、魔法と同じだね~」

 そう答えて、アルドラは頷いた。
 ……むむむ、ますます訳が分からなくなってきたぞ?

「魔法と同じ? でも、気の性質って、物質そのものには影響を与えられないし、さっき言った効果にしても生命力をぶつけるって言う意味になるはずだが?」
「でもね~、気って魔法学的に説明が出来るんだよ~? 剣とか弓を~、『斬る』とか『貫く』って意味の魔法陣に置き換えたらどうかな~?」
「……確かに説明は出来るが……」
「それにね~、物質そのものには影響しないけど~、その物体を使ってどうしようって言う意思は物質には伝わるよね~?」
「まあ……そうだな……」
「するとね~、その物質に伝わった意思が~、直接外の魔力を変化させちゃうんだ~ これをプロセス化すると~、技を使おうとする~、武器を触媒にして気力が魔力に変化する~、実際に技が発動するって言う順番になるんだよ~ 魔法と違うのは~、触媒が武器なのか自分の中の魔力なのかって言うところだね~」
「待った、それだと説明できない部分がある。人間の身体の中に生まれた気力がどうやって武器に伝わるのか、それが説明出来ていない。これはどうなんだ?」

 アルドラの説明を、俺はそう言って遮った。
 確かに、この説明なら気で魔法を弾けることに対する説明は付く。
 魔力に込められている思念に他の思念が混ざることで、その意味が変わってしまうからであろうと言う想像もつく。
 だが、そもそも意思の無い物質に担い手の意思が伝わると言うこと、これが分からない。
 これはさっき俺が言わなかった、魔力が魔法の使用者の思念に何故伝わるのかというものにも関わってくることだ。
 それを問うと、彼女はことさら困った表情で頭を掻いた。

「それがね~……その部分はまだ解明されてないんだ~」
「未解明? どうして?」
「そもそもね~、魔法学って言う学問自体はそんなに新しいものじゃないんだけど~、人間の中の魔力って言う概念が出来たのが割と新しいんだよ~ それまでは~、魔力を取り込むことで自分の魔力を蓄えるって思われてたみたいだし~」
「と言うことは、魔法学で気を扱い始めたのもつい最近のことって訳だ」
「そうなんだよ~ 魔法と気って~、元々別々の学問だったからね~ それに~、気力学って学者さんがあんまり居ないから~、学問自体が進んでなかったし~」

 成程ね……今まで全く別の分野だと思われていたものが、実はかなり密接に関わっていたものだと言うことか。
 この二つを両立して研究するのはなかなかに難しいだろうし、そもそも気を研究するには気を増幅する鍛錬と気力そのものに対する研究という、体育会系と研究職二足のわらじを履かなければならない。
 俺達の世界の様に体育大学みたいなものがあればそれも出来るのだろうが、学者が少ないってことはそもそもそれを学問として考える奴があまり居ないと言うことだろう。
 何と言うか、あれだな……本当に錬金術から化学への成長の過渡期みたいな分野だな、魔法学って。
 う~む、これはなかなかに面白い気配がするぞ。

「ちなみに、その気功学ではこの武器に意思が伝わるのをどう説明してたんだ?」
「武器に魂が宿るっていう仮説しかなかったよ~ だから、誰にも分かってないんだ~ でも~、魔法学ではこの現象を「意味の増幅」って呼んでるんだよ~」

 アルドラはそう言って小さくため息をついた。
 これほどまでの説明を出来るところからして、アルドラは考古学だけでなく魔法学に関してもかなり勉強しているのであろう。
 自分の専門外の部分まで手を出すほど知識欲の旺盛な彼女のことだ、分からないことがあると言うのは、さぞかしもやもやすることであろう。
 しかし、意味の増幅ね……そう言えば、それに関しても気になることがあるんだった。

「そういや、同じ気を込めても短剣と大剣だと全然威力が違うよな」
「それはそうだよ~ だって~、武器は魔法陣の替わりだもんね~ 魔法陣が大きいってことは~、相手を何とかしようって意思がずっと強いことになるから~、出てくる魔法も強力になるでしょ~?」
「……つまり、武器の威力に左右されるってことか?」
「そう言うこと~ 魔法でもそうなんだけど~、技の威力は自分が使った魔力や気の量にそれを補助する道具の意味を表すWっていう係数を掛けて大体の威力が計算できるんだよ~ だから~、威力の大きな道具使った方がずっと強い技や魔法が使えるんだよ~」
「ああ、だから魔導師は杖やらなんやらを持ってるのか」
「そうだよ~ 基本的には~、こう言うのは多機能なものよりも特化したものを使った方が強くなることの方が多いよ~ 魔法でも全属性をカバーするよりも~、一つの属性を強化するものの方が大体は強いんだよ~」

 アルドラの説明を聞いて、俺は頷いた。
 ……いや、少し突っ込みたい部分はありますがね。
 魔法や技の威力が計算式で出せるってことは、当然それを測定する器具があるってことだよな?
 それに、その計算式を出すためには、一定の力を掛けられる装置があって然るべきだが……あ、これはスクロールで良いのか。
 まあいずれにせよ、良い武器を持っておくに越したことはないと言うことが分かっただけでも良しとしよう。
 大体、RPGなんかでも似たような大きさの武器でも攻撃力の強弱はある訳だし。

「そういや、魔法の属性は何で人によって得手不得手があるんだ?」
「それ~、魔法学会でも難題中の難題だよ~? 親兄弟でも得意な属性は違うし~、同じ属性の人を集めてもこれと言った共通点が見つかってないんだ~ だから~、いったい何が基準になってそれが決まってるのかなんて誰も分かってないんだよ~」

 最後の質問には、アルドラもお手上げと言った様子で肩をすくめた。
 ……そりゃあ、一定の法則すらないんじゃ、議論のしようもないわな。
 っと、気力の話に時間を割きすぎたな。
 本来の魔法の話に戻るとしよう。

「話がずれたな。で、魔導師が気をあまり使えないのはどういうことなんだ?」
「気力が魔力に変わるのは不可逆反応なんだって~ それで~、魔導師はその気力を魔力に変換して蓄える能力が発達するんだ~ だから~、気力として使う前にみんな魔力に変わっちゃうんだって~」
「それじゃあ、戦士が魔法を使えないのは?」
「この場合は~、気力を魔力に変換する能力が発達しないから~、気力を魔力にしたくても出来ないからって言うことみたいだよ~ その代わり~、鍛えると蓄えられる気力が増えていくみたいだよ~」

 みんな仮説だけどね~、と言ってアルドラは説明を終えた。
 気力から魔力への変換は出来るが、その逆は出来ない、か……
 けど、それ以前に魔力の材料が気力なら、そもそも気力が無いと魔力が作れないと言うことにならないだろうか?

「う~ん……この説で行くとだ。筋トレしながら魔法の勉強をしないと、魔力が増えていかないってことになるが……」
「それはちょっと違うかな~ 論文だと~、魔法の勉強だけした人でも気力と魔力の総量は増加したって話だし~……どっちか伸ばしたい方だけやった方が効率が良いって結論が出てたよ~?」

 あ、それ実験済みなのね。
 総量が増えるってことは、魔法の練習をすれば魔力に変える分だけの気力が増えていくってことになるのね。
 でもって、すぐに魔力に変わってしまうから、気力として取っておくことは出来ないと。
 ……というか、まず根本的にだ。

「というか、魔力と気力、性質はともかく何がどう違うんだ? こう、種類的にというか、物理的に」
「それも分からないな~……だって、力の塊があることは分かっても気力か魔力なのかは判別できてないし~……実際に魔法や技として放出してみてやっと区別できてる状態だもんね~」
「それなのに、別のものであること自体は分かってるんだな?」
「そ~そ~ だって~、そう考えないと説明が出来ない事例が沢山あるからね~ 実験もされてるんだよ~? 同じ威力の技か魔法が使えて~、得意な属性が一致している魔導師と戦士に~、お互いの技を交換して撃たせる実験だね~」
「で、魔導師は戦士の技を使えず、戦士は魔導師の魔法が使えませんでしたってオチか?」
「そ~だよ~ だから~、魔力と気力は似てるけど別のものなんじゃないか~って話なんだよ~」
「……ホント、ややこしいな」
「あはは~、論文なんてそんなもんだよ~ まだまだ学問としては発展途上ってことだね~」

 最後の俺のつぶやきに、アルドラはそう言って笑った。
 誰にも分からないことを調べるって言うのは、こうまで難しいってことか。
 実際、錬金術から化学にまで発展するのには長い年月が掛かっている訳だし。
 ……しかし、そう言えば遺跡の中には霊機遺跡なんて言う代物があったな。
 これから何か解き明かせれば、技術も一気に進みそうなもんだが……いや、今考える話じゃないか。
 さて、本題に帰ろう。

「話が盛大に脱線……してもないな。何で俺がこれを聞いたかって言うと、気を使わずに魔力を使って魔法を防ぐ方法を知りたかったからだからな」
「あ~、それは結構簡単だよ~? それってね~、持ち物に自分で魔法陣描くだけでも結構効果あるし~、相手がどんな魔法使うか分かってれば自分で剣に魔法掛けちゃえば良いんだよ~」
「気を纏わせるのとは違うんだな?」
「違うよ~ 気を使う防御方法って、結構乱暴な方法なんだ~ 相手の魔法に合わせて防御に使う魔法を選ぶと~、もっと疲れなくて済むんだよ~」
「そうなのか。じゃあ、出来るのならばそっちの方が良いってことか」
「そうだよ~ でもね~、気を使う方法は発動が早いし相手を選ばないって言う利点があるから~、それも覚えておいた方が良いと思うな~」

 ということは、余裕があるならば魔法で防御した方が良いってことになる。
 逆に、即座に防御する必要がある、または相手の魔法が分からない場合はさっき俺がやったみたいに気を使って防いだ方が無難ということだ。
 もっとも、アルドラが気を使って防ぐと言うのはなかなかに想像しづらいが……

「ちなみに、そっちはアルドラも出来るのか?」
「あはは~、私の場合、魔法使った方が早いかな~ そっちの方が慣れてるし~」
「よく詠唱が間に合うな……」
「魔力の流れは発動前でも読めるからね~ それが自分に向かってきたな~って思えば、それに合わせて準備すれば良いんだし~」

 魔力の流れを読む、ね……以前アルドラから習ったことなんだが、これがなかなかに説明が難しいんだよな……
 何しろ、この魔力の感じ方は人によって違うそうだ。
 俺の場合、風の動きが魔力の動きを教えてくれるのだが、槍ヶ岳の場合は星屑の様な光の粒が動いて見えるらしい。
 このように、視覚聴覚嗅覚触覚味覚と、人によって機能する箇所が違うらしいのだ。
 これはそれなりに長く感じることもあるが、同じ魔法でも上手い術者だとほんの一瞬、あるいは全く気付けない場合すらある。
 しかも俺の場合は周りに魔法が現れる時には何が来そうか分かるが、相手の手元から放たれるような魔法は分からない。
 逆に、槍ヶ岳の場合は目で見える所の魔力の流れは分かるが、死角からの魔法には対応が遅れてしまう訳だ。
 この点から察することが出来るように、魔力の流れの感じ方によって対処しやすいものと対処しづらいものがあるのだ。
 その特性を箇条書きにすると、こうなるらしい。

 視覚:目で見える範囲の魔力の流れを見る。色によって属性の判別が可能。視野に入らない魔力の流れが見えないことが弱点。
 聴覚:活性化した魔力の音を聞き分ける。距離と魔法の強さで音量が変わり、音階で魔法の属性が分かる。物影で使われる魔法も分かるため、不意打ちを防ぎやすい。ただし、周囲の実際の物音が聞こえにくくなる。
 嗅覚:漂っている魔力の匂いを嗅ぎわける。魔法が使われた痕跡を知る事が出来、魔法陣の発見や使用者を追跡することが出来るものの、匂いが強すぎると方角が分からなくなる。
 触覚:自分に触れた魔力の流れを感知する。感触によって属性を知ることが出来、触れた位置によって方角を知ることが出来る。自分の周囲の魔法を感知することに優れるが、遠くで起こった魔力の流れは分からない。
 味覚:魔法の味を感じ取ることによって、その効果が分かる。欠点は、どんな味の魔法がどんな効果を発揮するのか知らなければならないこと。

 とまあ、ご覧の通りだ。
 ちなみに、種族ごとに傾向があるらしく、人間の場合視覚か触覚が大体の割合を占める。
 と言うのも、魔力を感知することに使われるのはその者の最も鋭い感覚が使われるのがほとんどだからだ。
 もちろんそれぞれに欠点はあるが、それぞれにある程度カバーする方法があるのだ。
 例えば、味覚で魔法を感じ取る奴は、魔法で全身を受容体にしてしまえば触覚のものと同じことが出来る。
 で、触覚は味覚じゃ出来ないやり方として、空気や水の振動を利用して遠くの魔力の流れを知ることが出来る。
 こういった感じで、気や魔法で補ってやればどれもそれなりに働いてくれるのだ。
 もっとも、それをやるってことは自分は常に警戒態勢で居なきゃならないから、やはりそんなことしなくて済むに越したことは無い。
 大体、分かったとしても対処できるかどうかは別問題だ。
 当然ながら、普通これは重要な個人情報なので、他人に喋ることはまず無い。
 これを知られることは、重大な弱点をさらけ出すことと同じだからだ。
 だから魔法を使う奴にとって、これを探り出すことが出来れば、相手に気づかれにくい魔法をそこから導き出せるという訳だ。
 魔法を受ける側からすれば、魔法を感知するための手段を行使すれば自分がどんな手段を使って魔力の流れを読んでいるのか分かってしまうことに繋がりかねないため、そのあたりも頭を痛めることになる。
 この駆け引きが非常に難しいのだ。
 これに関してはアルドラが教えていないはずはないだろうが、具体的にどうすればいいのかと言うのはアダーラにとって大きな課題であろう。

「でも~、最初はやっぱり気を使う方法を教えた方が良いと思うよ~ 乱暴で一番疲れるけど~、一番早くて何にでもある程度対処できるからね~ これは私よりもスバル君が教えた方が良いと思うな~」
「成程ね……確かにそっちは俺向きだな」

 これに関しては、アルドラに同意である。
 アダーラがアルドラの真似事を出来るとは思っていないし、何よりこれが一番手っ取り早い。
 で、それを普段やらないアルドラが教えられるはずもないのだから、必然的に俺が教えることになるだろう。
 そう思っていると、アルドラが再び口を開いた。

「それで~、魔法での対処なんだけど~……これ、結構複雑なんだよね~」
「複雑?」
「例えば~、氷魔法だったら炎で消せるし~、逆も出来るよね~?」
「まあ、そうだな」
「でもね~、風を土で防げても~、土を風じゃ防げないんだ~ 土を防げるのは~、本当に少ししかないんだよ~」
「属性ごとに防げるものと防げないものがあるってことか」
「それだけじゃないよ~ 風だったら~、氷の塊は防げなくても、吹雪は防げるよね~」
「成程、同じ属性でも防げるものと防げないものがあるってことか」
「そういうこと~ これは魔力の範囲と大きさを見て、どんなのが来そうなのか見てないとね~ 吹雪が来ると思ってたら大きな氷の壁が飛んできました、なんてこともあるからね~」

 アルドラは小難しい顔をしてそう言った。
 つまり、魔法の範囲と属性が分かるだけでは不足であり、どんな魔法が飛んでくるか予測しなければならんと言うことだ。
 と言うことは、もし相手が同じ属性の似たような範囲の魔法を複数使えるとしたら、どちらが来るかが非常に分かりづらいはずだ。
 下手すりゃそれが分かってから防御を始めるなんてことにもなりかねないし、そりゃあ小難しい顔にもなる。
 だがまあ、今回俺が教えるのはそっちじゃない。
 今のところは、自分の得意分野でやっていくとしよう。

「まあ、とりあえずは気を使っての防御を練習しておくか」
「そうだね~ “火炎弾幕エル・ブライト”!」

 話をしていたのに、そこから一拍も置かずに魔法が発動する。
 俺の目の前には、炎の玉がまるで下から見上げた大雨の様にならんで飛んできていた。
 どうやら先程の反応から俺がどうやって魔法を察知しているのか見当をつけたらしく、その感知しづらいやり方を選んだらしい。
 ……だが、これくらいは何とかしないとな。

「はあっ!」

 俺は右手に気を込め、その手を前に突き出した。
 すると俺の目の前で緑味を帯びた光の塊が爆発し、飛んでくる炎の弾丸を吹き飛ばした。
 それを見て、アルドラは感心した様子で頷いていた。

「おお~、気ってそんなことも出来るんだね~」
「まあな。一応こういう魔法が相手なら使えるだろうし」
「詠唱は要らないんだね~?」
「気の塊を前に少し打ち出すだけだからな」
「そっか~」

 俺の説明に、アルドラは興味深げに今の現象を思い出してメモ帳にスケッチする。
 今の技は、元々近くに寄ってきた相手を吹き飛ばすための技で、槍ヶ岳から教わったものだ。
 魔法を弾き飛ばすのはその応用で、使い勝手は大変宜しい。
 ただ欠点として、目の前の空気中に気を発散させる訳だから、結構気力を消費してしまうところがある。
 まあ、俺の場合弓を使っている訳だし、矢を放ってすぐに何か来た場合の非常手段と言う意味合いが強いから、乱発はしないけど。

「あ~、そ~そ~、私からもスバル君にお願いしたいことがあるんだ~」
「ん、何だ?」
「今度私の特訓に付き合って欲しいな~って」

 描き上げたスケッチを眺めながら、アルドラはそう口にした。
 アルドラの特訓とな?
 はて、俺に何を手伝えると言うのだろうか?

「アルドラの特訓ね……その様子だと、何か苦手な相手でも居るのか?」
「そりゃあ居るよ~ だって~、魔法使いにとって弓って相性最悪なんだし~」

 俺の質問に、アルドラは苦い表情でそう答える。
 う~む、確かに魔法と弓は両方とも遠距離から攻撃できるものだが、そんなに相性が悪いのか?
 むしろ弓側からすれば、広範囲の魔法で迎撃されればあっという間に返り討ちにあいそうなものなんだが……

「そうなのか? 魔法で撃ち落とせば良いだけだと思うんだが?」
「全然違うよ~ 弓って~、魔法と同じことが結構出来るでしょ~?」
「広範囲の技じゃなけりゃあな。属性を乗せた矢を放つ技なら、確かにあるぞ」
「あれね~、すっごく怖いんだよ~? 矢が尽きなかったら~、魔法と物理両方対処しないといけない攻撃が遠くからどんどん来るんだよ~ 生半可な魔法で受けると貫通してくるしね~」
「ああ……そっか、土の魔法で壁を作ってもダメだもんな。しっかり気が籠ってると物理障壁は貫通出来るし」

 アルドラの言い分を聞いて、俺は納得した。
 飛んでくる矢を炎で焼いたところで、ただの矢が火矢になって飛んでくるだけである。
 それによく考えたら矢の役目は相手を貫くことである。
 ちょっと気を込めて矢を放てば、来てすぐの頃の俺だって丸太を貫通出来たのだ。
 つまり、相手が戦い慣れていれば、弓師は飛んでくる魔法を貫通して相手を攻撃できると言う訳だ。
 成程、確かにそれは脅威であろう。

「でしょ~ 私もある程度の対処は出来るけど~……スバル君レベルの相手には会ったことなかったし~……」

 その俺の反応を見て、アルドラは同意を得られて少し嬉しかったのか微苦笑を浮かべた。
 俺レベルの弓使いに会ったこと無い、ね……そう言えば、チーム以外で弓使ってるとこ見たこと無いな。
 ソロの奴らは、大体が剣とか槍とかだし……魔法は目の前にいるし。

「そういや、闘技場で弓使ってる奴居ないな」
「そりゃそうだよ~ 一人で弓持って闘技場に入るのって、本当に強い人だけなんだよ~ 一人で弓持ってAランクになった人って、この町じゃ十年ぶりくらいじゃないのかな~?」

 アルドラの何気ない一言に、俺は固まった。
 まあ、曲がりなりにもAランクはクリアしている訳だし、正直弱くはないと思いますよ、俺。
 それに言いたいことは分かる。
 本来、弓と言うのは相手の攻撃が届かない遠距離から近づくことなく攻撃するものであるため、こと闘技場にあっては抜群に相性が悪い。
 闘技場で弓を使うのは、仲間のバックアップを得た上でその役割がはっきりしている奴くらいだ。
 何しろ、既に見つかっている上に至近距離にいる状態から戦いが始まるし、必然的に相手から逃げ回る羽目になる。
 仲間のバックアップや地の利を有効活用出来ないと、非常に苦しい戦いを強いられることになると言う訳だ。
 もっとも、だからこそ俺はその弱点を潰すために修行を積んで来ている訳だし、他の奴がわざわざそんなことをする必要が無いのだって理解はしているつもりだ。
 けど、自分の弓が十年ぶりに現れる程度の腕前だなんて思いもしなかったわけですが?

「……え、俺そんなに強いの?」
「……それ~、本気で言ってるの~?」
「いやね、俺がこのレベルだから、これくらいもっと居るのかと思ってたんだが……」

 すっごいジト目でこちらを見つめてくるアルドラに、俺はそう言い返す。
 だってさぁ、Aランクの人間は少ないと言われても、すでにそれ以上の腕前の奴を三人は知ってんですもの。
 この調子じゃ、Aランクの奴なんて世界を探せば掃いて捨てるほど居るんじゃないかと思えるくらいだ。
 それなのに俺にそんな評価を下されたって、全くもって信用性が無いのですがねえ?
 そう思っていると、アルドラはジト目の表情のまま俺にずずいっと詰め寄ってきた。

「スバル君、自分がアーリアル様の使徒だってこと忘れてな~い?」
「いやいや、それでも俺を超えるような人外もいるし」
「それが何人居ると思ってるの~? Aランクの冒険者だって~、君が思ってるほど多くはないんだよ~?」
「そういうアルドラはAAランクだろ。知り合いだってAランクをあっさりクリアする奴が居るし、割と多いんじゃないのか? て言うか、顔近いって!」

 鼻先が触れ合ってしまいそうな距離にまで詰め寄られ、俺は身体を引きながらアルドラに応える。
 すると、彼女はこれ見よがしに大きなため息をついた。

「はぁ~……それね~、アーリアル様のお陰なんだよ~?」
「……は?」
「アーリアル様は~、冒険者の成長を促す神様でしょ~? だから~、強い人と会う機会が増える加護もついてるんだよ~?」
「……マジか」

 自分の身の上を知って、再び頭を抱える。
 本当にマジで勘弁していただきたい。
 俺はどこぞの俺より強い奴に会いに行くような格闘家ではないのだ。
 大体、その強者と会う加護でやってくるのが味方とは限るまいに……
 うん、もう考えるのはやめよう。

「しかし、何で特訓なんて考え出したんだ?」
「サーザ様のことを考えるとね~ この先~、危ない遺跡に行くことも多くなりそうだし~」
「そういうことね。なら、協力しないわけには行かないな」
「ありがとね~」

 俺の返事を聞いて、アルドラは嬉しそうにそう言って笑った。
 サーザの周りの神様がどんな感じなのかは知らないが、間違いなく危険な奴も居ることであろう。
 彼女はどうしてもそう言うところに首を突っ込むことになる訳だし、手伝えるところは手伝っておきたいところだ。
 ……ところが、実は俺の方に問題があるんだよな、これ。

「あ~……だが、それはアダーラの特訓がちょっと進んでからにしようぜ?」
「どうして~?」
「いや、ちょっと俺の方に問題があってな……それを解決するのに時間が掛かりそうなんだわ」
「ん~……わかった~」

 アルドラはそう言いながら首をかしげる。
 ……どうやら、サーザの力は使わないでいてくれたようだ。
 この問題はアルドラにはあまり知られたくないし、正直ありがたい。

「ま、とりあえず今日のところは俺の修行をさせてくれ」
「おっけ~」

 そうして、俺はしばらくの間アルドラと修行をするのであった。





* * * * *

 スピカさんがどえらいことになっていると言うのに、スバル君は呑気に平常運転の巻。
 どうにも彼は現在強くなること以外あんまり考えていない様子。

 それ以外のことに関しては、この世界の魔法についての講義っぽくなりましたね。
 つまりあれです、この世界では、魔法は気合で受け止められると言うことです。
 ちなみに、作中では仮説に留まっていますが、この世界の魔法や気功は現実では排斥された精神体の概念を科学に組み込める世界だとしたらと言う仮定の元に設定を組んでいますので、詳しい設定は出来ています。

 では、ご意見ご感想お待ちしております。
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