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夢追い浪人の途中下車

今までここに来た人:
今ここにいる人:

「神頼みで人捜し」
始まりの町にて2

自主トレ

 ←教官役の特訓 →教導開始と冷たい覚悟

 ……また、夢を見ている。
 俺が今居るのは普段から通っていたゲーセンだ。
 そして眼の前には、俺と俺の探し人が居る。

「うわっと! 危ない危ない」
「そんな慌てるもんでもないだろ。落ち着いて狙えばどうってことは無い」

 俺と勇夢は二人してガンシューをしている。
 制服から言って、どうやら高校時代の話のようだ。
 はて、これは一体いつの話だろう……

「そりゃお前ほど狙いが早く正確ならな。どうすりゃあんな正確に弱点だけ狙えるんだよ?」
「まあ、練習するしかないだろ」

 俺がそう言うと同時に、ボスが倒される。
 ああ、こいつなら三面のボスだな。
 こいつが居るってことは、俺が入学してからあんまり時間が立っていない時代の話だ。
 それを倒した俺の言葉を聞いて、勇夢が唖然とした様子で俺を見る。

「……おい、お前一体いくらこれにつぎ込んだ?」
「さあ? 一万から先は数えてないな」

 これは本当に数えていない。
 月一万円の小遣いの大半をガンシューにつぎ込んでたからな。
 ほぼ毎日通ってたし、しなかったのは学校が休みで外に出ることが無かった時くらいの物だ。
 そんな俺に、勇夢は呆れ果てた様子でため息をついた。

「お前って奴は……本っ当に出来るようにならなきゃ気が済まないんだな?」
「出来ないって言うのはストレスが溜まるからな。他に金使うこともないし」

 そう言いながら、俺は次のステージへ進むためのボタンを押す。
 う~む、我ながら随分と負けず嫌いな発言をしたものだ。
 けどまあそもそもそんなに昔のことでもないから、俺自身何も言うことは出来ないだろう。

「……じゃ、魔法を編み出すのは諦めたのか?」
「おい馬鹿やめろ。人の黒歴史を掘り返すな」
「あんときのお前凄かったもんな……神話に科学、物理まで手当たり次第に勉強してな」
「おい、それ以上は戦争だぞ?」

 意地の悪い笑みを浮かべる勇夢に、俺が剣呑な雰囲気でそう返す。
 ……うぐぐ、聞いている俺の心臓も軋む……中学時代に本気で魔法を再現しようとした黒歴史、こんなところで掘り返されるとは……
 それが物理的に不可能だと察したとき、俺の中二病時代は終わりを告げたんだったか。
 いや、超常現象をその手で起こそうなんて考えた俺も俺だが、気づくのが遅すぎだろ……
 そんな俺に、勇夢はからからと笑い声をあげた。

「まあ、良いじゃないの。そのお陰で理科と歴史は成績上位なんだし、勉強癖も付いてるからな」
「へいへい、それでも上位止まり、その他の科目が中位以下なのが俺のお頭の出来の悪さをよく表してますよ」
「そう悲観するもんじゃあ無いとは思うけどな……」

 投げやりな俺の発言に、勇夢は苦笑いを浮かべる。
 この発言ってことは、五月の中間試験が終わったあたりの話か。
 確かこの時かなり勉強したものだが、得意科目でも上位十番以内には入れてなかったんだよな。
 かろうじて化学と世界史が三十位以内に入る程度で、英語と古文に至っては平均にギリギリ届くくらい。
 一日三時間くらい勉強していたのに、この結果で内心腐っていたんだっけか。

「テメエ! 今日と言う今日は容赦しねえ!」

 そう話していると、突如としてゲーセン内に怒号が響く。
 その方を見ると、一人の男が別の男に掴みかかっていた。
 掴みかかっている男の後ろには女の子が立っており、掴みかかられているのは茶髪に黒淵メガネのチャラ男だ。
 ……ああ、これはあの時か。

「まあまあ、落ち着いてくれるかい? ここは喧嘩する場所じゃないだろ?」
「うるせえ! テメエ俺の女に何度も何度もナンパ掛けやがって!」
「へえ、俺様振られた女の子には声掛けてないつもりなんだけどねえ……」
「この、減らず口を!」

 軽い口調で平然と返すチャラ男に、男はさらに声を荒げる。
 ……そうだった、あの馬鹿は初めて認識した時からこうだったな……

「何かあいつ見覚えがあるな」
「お前って奴は……もっと周囲に目を向けろよ。クラスメイトだぞ、あいつ」
「そうだっけか?」

 呆れ顔の勇夢に、俺はきょとんとした表情でそう返す。
 まあ、当時の俺はゲーセンのことばかりだったからな。
 周囲の顔なんて一切覚える気なかったし。
 この時だって、触らぬ神に祟りなしって思っていたはずだ。

「まあ、ここで暴れられるのもあれだし、ちっと行ってくるわ」
「あ、おい勇夢!?」

 だと言うのに、ここで黙っていないのがこの贄川勇夢という男。
 俺が止めるのも聞かずに、喧嘩の仲裁をしに歩いて行く。

「あの……」
「だらああああああああ!」
「ぼげはあああああああ!」

 が、それを実行する前に強烈な横やりが入った。
 助走と全体重を乗せた側頭部への跳びひざ蹴りを喰らい、チャラ男は男の手から離れて床に転がる。
 胸倉を掴んでいた男は、その突然の襲撃者にぽかーんとした表情を浮かべていた。

「すんません、俺の連れが飛んだご迷惑を……」

 一方、その襲撃者はと言えば茫然としている男にぺこぺこと頭を下げていた。
 そいつは黒髪で眼付きの悪い男であり、床で伸びているチャラ男のストッパー役であった。
 ……事情も聞いてないのにこの行動とは、もうこの時点で奴はこういうのが日常茶飯事だったのだろう。
 その男を見て、謝られた方の男が目に見えて慌てだした。

「げっ、粟生永和!? こ、こっちこそ悪かったな……テメエの連れとは知らなんだ……」
「いえ、全面的に悪いのはこいつなんで……オラ、死んで詫びろ、貴様!」
「ごげっ、げぼっ、あ、粟生ぢゃあ!? それいじょぶっ!? ホントにじっ!?」

 粟生は床に倒れている遠賀の顔面や鳩尾を狙って執拗にストンピングの雨を降らせる。
 遠賀の自業自得の様な気もするが、傍目から見ればどう考えてもやり過ぎだから、俺も唖然としたもんだ。
 ……まあ、後にこれでも足りないことを知ることになる訳だが。

「そこまでだ」

 そんな粟生に、勇夢は声を掛ける。
 こうして見ると、こいつ怖いもの知らずにも程がある。
 だって、この時の粟生はそれに慣れた俺だってあまり近づきたくないって言うのに。
 そんな勇夢の声に、粟生はその方を向いた。

「あ……? 何だ、贄川か。どうかしたのか?」
「どうかしたのか、じゃないだろ。お前、周りの迷惑を考えろよ、粟生」
「……そうだったな」

 勇夢の言葉に、粟生は罰が悪そうに頬を掻いた。
 その一方で、流石に見ているだけと言うのが躊躇われた俺が遠賀に声を掛けていた。

「お、おい、大丈夫か、お前……」
「……くそっ! 何で君は女の子じゃないんだ!?」
「死ね」
「あぎゃはあ!?」

 起きて早々アホなことを言い始めた遠賀の喉に、俺は気付けば逆水平チョップをかましていた。
 ……これが遠賀との最初の会話だと言うのだから、ギャグにしかならねえ。

「……何なんだ、こいつは?」
「すまん、こういう奴なんだ……って、アンタも俺と同じ学校か。俺は1-Dの粟生永和だ」
「てことはクラスメイトか……俺は糸川昴だ」

 再び伸びた遠賀を見降ろす俺の制服を見て粟生が自己紹介をし、俺もそれに応える。
 そんな俺達の様子を見て、勇夢が頭を抱えて大きなため息をついた。

「お前ら……お互いに席が前後だって言うのに、ギャグみたいな自己紹介してんじゃねえよ……」
「いや、だって俺こいつを教室で見た覚えがねえし……」
「そもそも入学して一か月くらいしかたってないしな……」
「それでも隣の席の奴の名前くらい覚えるぞ、普通……」

 二人して言い訳する俺達に、勇夢は頭を抱える。
 この時はまだ席が出席番号順だったから、粟生と糸川では席は非常に近い。
 それでもお互いに覚えていないのは、俺が覚える気が無い上に当時は休み時間になると図書室に行っていたからだ。
 もっとも、この様子では粟生も俺のことを覚える気が無かったんだろうがな。

「ちなみに俺様、君の隣の席の遠賀彰義。粟生ちゃんすら覚えてないんだし、俺様のことも覚えてないだろ?」
「うおっ!? もう復活したのかよ!?」
「相変わらずゾンビよりも往生際の悪ぃ奴だ……」

 いきなり立ち上がって自己紹介をする遠賀に、俺は驚き粟生は頭を抱えてため息をつく。
 それを聞いて、遠賀は肩をすくめてにやけ顔で首を横に振った。

「殺す前提で言うのやめてくれるかい、粟生ちゃん? 愛が足りないよ!」
「テメエに向ける愛は拳で十分だと思うんだがどうだ?」
「ああん、そんなひどぅい……」

 粟生からの返答に、遠賀は嘘泣きをして返す。
 ……うん、今の俺ならこの行動を見た瞬間に殴ってたわ。
 粟生も握り拳に力を込めるが、ふと俺達を見て深呼吸をして拳を解いた。

「ま、止めてくれて助かったぜ、贄川。危うくまた補導されることろだったぜ」
「また?」
「この馬鹿の暴走を止めるたびに補導されてんだよ」
「それに関しては、粟生ちゃんの暴力が過剰なだけだと思うね、俺様。ついこの間、お巡りさんにいじめの相談をされたし」

 ジト目をくれる粟生に、遠賀はそう言って再び肩をすくめる。
 それを聞いて、粟生は雷にでも撃たれたかの表情を浮かべた。

「何……だと……」
「至ってまっとうな結果だと思うが?」

 愕然とする粟生に、勇夢が横からそう口にする。
 まあ、そりゃあそうなるよな。
 傍から見れば、遠賀が常日頃粟生から凄まじいまでの虐待を受けているようにも見えるし。
 本当は遠賀の自業自得なのだが、粟生があまりにも苛烈すぎるために証人も逃げてしまうのだ。
 現に、先程の男はとっくのとうにこの場から立ち去っている。

「まあ、それはともかく、君達はここで何してるんだい?」
「うん? 俺はそこのガンシューをやりに来たんだが」
「俺はその付添。昴みたいに毎日来てるわけじゃないが、今日はたまたま予定が合ったからな」

 遠賀からの質問に、俺が答え、それに勇夢が続く。
 すると、遠賀はポンと手を叩いた。

「ああ、君か! この前入学して一か月も経たないうちにここで補導された一年生って」
「何だ、糸川だったのか、あれ……」

 遠賀の言葉に粟生はそれに頷いた。
 いやいや、毎日ゲーセンに通っているからって、補導されるとは限らないだろ。
 ……まあ、事実その通りなんですが。
 と言う訳で、その言葉を聞いた俺は苦い表情を浮かべるのであった。

「……おい、マジかよ」
「あはははは……どうやら、本当に昴君のことだったみたいだね……」

 その俺を見て、粟生は頭を抱え、遠賀は乾いた笑い声をあげた。
 突如として、微妙な空気が流れ始める。

「まあ、とりあえず何かやろうぜ。せっかくゲーセンに来てるんだし」

 そんな中、その空気を払拭するようにに勇夢がそんなことを言い始めた。
 そうそう、これが当時の俺には上手く出来なかったんだよな。
 まだ、粟生や遠賀のことは少し警戒していたし。
 すると、それに粟生と遠賀は頷いた。

「だな。元々それが目的でここに来た訳だし」
「そうだね。親睦会ついでに、俺様に粟生ちゃんと昴君が補導されない様にするためにはどうすれば良いのか考えようじゃないの」
「昴はともかく、粟生は遠賀が大人しくしていれば良いんじゃないか?」
「そんな殺生な~」

 そんなことを話しながら、俺達はゲーセンで遊び始める。
 以上が、俺が粟生と遠賀と知り合った経緯であった。


 * * * * *


 ……いかん、いつの間にか眠ってしまっていたか。
 修行しに来てるっているのに……
 くっ、木から落ちた拍子に気絶していたのか。

「……ちっ」

 俺は今、町から少し離れた森で個人的な訓練をしていた。
 俺がやっているのは身体の動かし方の練習だ。
 と言っても、そんなに難しいことはやっていない。
 何故なら、今俺がやっている訓練と言うのはある地形をひたすらに全力疾走するだけのものだからだ。
 これは、以前自分の身体能力と持っている感覚のずれを自覚した時から始めていること。
 それを是正するためには、自分の身体を使いこんで感覚を合わせていく他ないだろう。
 そのために普段闘技場で飛んだり跳ねたりして訓練を重ねているが、こればっかりはあそこでやっても仕方がない。
 実際のフィールドで同じことが出来なければ意味が無い。
 そう思って、森の中まで来ているのだ。

「もう一度だ」

 森の中を駆け、木に飛び乗り、樹上を最速で駆け回る。
 途中で何度も力加減を見誤り、木から落ちた。
 骨折みたいな回復薬をがぶ飲みするような怪我を、何度もしている。
 それでも、俺はこの訓練を続ける。
 今日は森、この前は山、その前は岩の多い平原。
 ここ最近では、闘技場に行くかこの訓練をするかのどちらかだ。
 ただ駆け回るだけの修行だが、それだけでもただ戦うよりも怪我をしている。
 その原因は、俺の今までの成長速度にある。
 俺はアーリアルの加護などの様々な要因によって、急速に成長してきた。
 だが、それは単純に身体能力だけだ。
 今の俺は、昨日まで自転車を漕いでいた小学生が、いきなりF1に乗せられた様なものなのだ。
 あれからずっと俺は自分の身体能力に感覚を鳴らそうとしていたのだが、どうにも上手くいっていない。
 だから、自分の全力を制御できず、木にぶつかったり崖から落ちたりする。
 そして今も、木の頂上の足場を飛び越えて、落下を始めていた。

「くっ、“疾風”!」

 落下する寸前に、自分の拳に風を纏わせ、それを地面に叩きつける。
 叩きつけられるはずの身体はその風圧で浮き上がり、ボールのようにバウンドする。
 しかし、今度はその威力を誤り、近くの木に叩きつけられた。

「がはっ……」

 何度感じたか分からない、土の感触。
 全身に走る衝突の痛みを堪えながら体を起こし、木にもたれかかる。
 わき腹と右足から、顔が青ざめるような激しい痛みを感じる。
 ぐぅ……これは……肋骨と右足をやったか……
 外套の中に忍ばせておいた薬草をかじり、立ちあがって拠点にしている簡易テントまで歩く。
 この薬草は多少の怪我の回復能力はあるが、おもな効用はただの痛み止めだ。
 冒険者でも傭兵でも常備しておくべきものであり、一時的に痛みを感じなくさせて安全地帯に逃げるためのものである。
 痛覚が麻痺するほどの麻酔作用があるため乱用は出来ないが、一人しか居ないこの状況ではどうしようもない。
 折れているらしい右足を引きずりながらしばらく歩くと、魔法陣の上に設置されているテントへとたどり着いた。
 この魔法陣はこの前の遺跡探検でアルドラが使っていたのと同じものだ。
 その描き方を教えてもらい、自分で描いたものだ。
 そのお陰で、野生動物や魔物は近くには寄って来れず、荷物が漁られることもない。
 俺はテントの中に入り込むと床に倒れ込み、中に置いてある鞄に手を伸ばし、回復薬の透明の液体を口にした。
 ほろ苦さの中に甘みを含んだ液体が喉を通ると、薬草の独特の香りが鼻に抜けていく。
 それを感じながら、俺は体を横たえたまま回復を待つ。

「……ふう」

 安静にしていると全身の痛みが引き、胸と足の違和感が収まる。
 ……最近になって知ったことだが、最後の修行の際に槍ヶ岳が用意していた回復薬はかなりの上物で、買おうとするとかなりの値段が付く。
 回復薬も精々擦り傷や切り傷が治るだけの様なものから、俺が使っているような骨折まで即座に治すようなもの、果ては全ての病気や死に至るような怪我まで一瞬で完治させるような万能薬まで、様々な種類がある。
 で、一番安い回復薬なら大銅貨五枚くらいで済むんだが、冒険者が使うものは小銀貨五枚、俺が使っているような奴になると大銀貨三枚何ていう額になる。
 これを日本円に直すと、一番安いのが約三百円、次が三千円、俺が使っているのは一万八千円と言う額になる。
 一般的なギルドの仕事で貰える標準的な額は、CCCランク以下では一回で大体金貨三枚、Bランク以上では危険度に応じて金貨十枚以上から、Aランクで大体金貨百枚程度だ。これを人数で割る。
 その中から、自分の武器防具の整備のための費用や、日々の生活費、必要な備品の購入など、様々なものが引かれていく。
 すると、一般の冒険者がおいそれと大量に買い込める額ではないと言うことが分かってくる。
 傷が五分もせずにふさがり、骨折すら十分で治すような薬だ、よく考えれば安いはずが無い。
 普通の冒険者なら、一本保険に持っておいて、これを使うようなら撤退して作戦を練り直すと言う事態になるのだ。
 この原料となる薬草自体は栽培方法が確立されており、金を出せば冒険者を雇うよりは安く大量に手に入る。
 つまり、原価自体はそこまで高くは無い。
 それでも冒険者の回復薬が高いのは、それが利用者の少ないニッチ商品だからだ。
 神術なんて言う便利なものがあるから、怪我や病気も町の中に居るなら教会に行けば良いだけの話だし、仲間に神術師が居るなら薬は要らないもんな。
 だが、それが出来ない冒険者も少なからず居るし、神術師自身が重篤な怪我をした時にはこっちを使うことだってある訳だから、多少高くてもそれを買わざるを得ないと言うことだ。
 日々を家庭の常備薬を売ることで食いつないでいる薬師にとっては、売れれば儲けものの重要な高利益商品と言う訳だ。

「さてと」

 俺はテントに置いていた鞄の中からノートを取り出し、それを見ながら数種類の薬草、そして乳棒と乳鉢を取り出す。
 幸いだったのは、原料が簡単に手に入り、その作り方も俺は知っているということだ。
 何しろ、普通の冒険者なら簡単には入れないところに、俺はそれなりに入っていける。それに俺には地上を高速移動できる手段もある。
 そのお陰で、まだ手のつけられていない、徒歩や馬では簡単に来れないようなところにある野生の薬草の群生地を見つけられたのだ。
 自分で開発しておいてなんだが、ここまで便利な魔法になるとは思わなかった。
 ちなみに、商人達が冒険者を金で雇って捜索に来るような場所でもない。
 薬草を念入りにすり潰しながら、綺麗な水を徐々に加えていく。
 それを重ねたガーゼで濾すと、透き通った赤色の液体が出来上がる。
 これが回復薬の元になる抽出液だ。
 これをそのまま使っても擦り傷切り傷を素早く治すくらいは出来るのだが、俺が使っている透明の回復薬にするにはもう一手間加えなければならない。

「よし」

 出来上がりに問題が無いことを確認すると、今度は青梅の様な果実を取り出し、それを搾る。
 この果実、ヴァルキリーの実などと呼ばれることもあるのだが、その名が示すとおりこれをそのまま食べようとする勇者はヴァルハラ送りとなってしまう。
 その誤食例が頻繁に上がるくらいには知られている植物であり、冒険者の間では忌避されるものとなっている。
 しかし、その汁を先程の抽出液の中に加えると、どういう訳だか知らないが傷ついた戦士を即座に回復させる高級な回復薬になるのだ。
 ヴァルキリーの実とは、実に本質を的確に表している名前だという訳だ。
 槍ヶ岳曰く、この知識は薬師の間では広く知られているが、冒険者には浸透していない知識だということ。
 更に言えば、知っていてもそれを実行に移せる冒険者はあまり居ない。
 と言うのも、正しい調合配分や手順を理解していないと、ヴァルキリーの実の毒を消せずにただの毒薬になってしまうからだ。
 では何故ちゃんとした知識を学ぶ冒険者が少ないのかと言えば、冒険者は一部を除いてそうならざるを得なくなった人間であり、そう言った知識を得るための時間も金もないのだ。
 そんな訳だから、ある程度金を稼いで時間が出来るようになっても勉強をするという発想になかなかならない。
 今まで成功してきているのだから、現状でも問題は無いという考えで固まってしまうのだ。
 おまけに、得てしてこの手の参考書と言うのは非常に高価で、しかも間違った知識を書かれている偽物である場合もある。
 確実に正しい知識を得るためには信頼のおける薬師に弟子入りするしかなく、そこでまた膨大な時間を消費することになってしまうのだ。
 だから、自分の専門分野の範囲でしか勉強しない。
 狩人なら狩りの知識を、魔導師なら魔法の知識ばかりになり、薬の知識まで行かないのだ。
 しかし、本来はそれが普通だ。
 何故なら、余程の理由が無い限り危険を冒してまで一人で冒険なんてしない。
 いろんな分野の専門家が集まって、緻密に連携を取り合って目的を達成する。
 それが出来るのなら、その方が何倍も効率が良いのは考えるまでもないことだ。
 俺は旅をする目的が目的だし、俺自身も特殊なせいで一人旅をせざるを得ないから、何でも覚えなければならんと言うだけのこと。
 師匠にしたって、その強さからちゃんと勉強するだけの時間と金に余裕があったからこそできたことなのだ。
 赤い抽出液の中にヴァルキリーの実の搾り汁を加えて混ぜ合わせると、赤い液体が見る見るうちに透明になっていく。
 これで、俺の骨折を治した回復薬の完成と言う訳だ。
 ちなみに、俺にはこれしか薬が作れない。
 他の薬に使う薬草の種類や調合の手順等を、俺は知識として持っていないのだ。
 何しろ、薬の調合方法などと言うのは本来薬師の秘伝に当たるものだ。
 我が師匠である槍ヶ岳も様々な薬草の知識とこの薬の作り方は教えてくれたが、それ以外の薬の調合法は教えてくれなかった。
 と言うのも、その他の薬の作り方を自分で調べるのも修行の一環だからだそうだ。
 槍ヶ岳自身も失敗を繰り返して作り方を覚えたものだし、他の薬師だって少しずつ経験を積んで習得するのだろうからそれも頷ける。
 知識や知恵と言うのは黄金にも勝る宝、薬師にとってはまさにこれがそうなのだろう。
 この薬だけ教えたのは、俺の行く先を考えた場合に必要最低限これだけは知っておいた方が良いし、仮に新薬の作成に失敗しても、この薬を飲めばある程度の解毒作用があるから死にはしないからだと言う。
 だからこそ、この薬の作り方だけは徹底的に叩き込まれたのだ。
 ……そもそも自分で作った新薬を自分の身体で試そうなんていう考えが間違っている気もするがね。
 俺がこの薬を作る練習をしていた時も、師匠が試飲してぶっ倒れてたし……何で平気なんだろうな、あいつ。
 しかし、実際には俺が新薬を試す際には自分の身体を使うしかない。
 薬草の知識からどんなのが出来そうかを予想して試すのは怖いが、いずれは挑戦すべきことなのだろう。

「……休憩終わり」

 テントから出て、再び木に飛び乗る。
 今度は弓を持った状態でだ。
 矢はそこらの木の枝と鳥の羽を材料にして、先端を石で磨いて火で焼いただけの急造品、原始人が作ってたような奴だ。
 作り方は槍ヶ岳から教わったもので、本当に矢が尽きた時はこれを使う。
 魔物相手に通用するのかと疑問に思うかもしれないが、きっちり通用する。
 野生動物が元の世界よりもグレードアップしているように人間もグレードアップしており、おまけにこの材料の木自身もグレードアップされているのだ。
 切り倒してしまえば一見元居た世界の木とは違いが無いように見えるが、この世界の木は鉱物類より魔力や気を蓄積させやすいという特徴を持った材料になる。
 これで鉄の矢じりを使わずそのまま矢を作った場合でも、気や魔力を込めることで十分に相手に手傷を負わせられるのだ。
 まあ欠点として、矢そのものが軽くて矢じりも柔らかいもんだから、物理的な威力はあまりないという点があるんだけどな。
 逆に利点は何かと言えば、気が込めやすい特性上、幽霊なんかに対応できる矢を作ることが出来るって言う点だ。
 欠点が随分と軽いようにも聞こえるが、これはそうではない。
 何しろ、ゴーレムの様な無機物の魔物には効きが悪いし、鎧を着た魔導師なんかにも易々と防がれる。
 貫通矢を放つにしても、気を込めて撃った時は鉄の矢じりの方が遥かに効果があるため、一概にどっちが優れているとは言えないのだ。
 どういうことかと言えば、以前話したように、物に気を込めるということはその相手に擬似的な生命を与え、その物自身に魔法を使わせて物質自身の性質を変化させると言うものだ。
 ここで大事なのは、木の矢よりも鉄の矢の方が元々貫通力が高いということ。
 相手を貫通するほどの威力になるための強化幅が少ないから必要な気力量も少なくなるし、爆発させたときだって木片よりは鉄の欠片の方が威力が高いだろう。
 要するに、元々威力の高いものを強化した方がより簡単に強くなるということなのだ。
 と言う訳で、物理攻撃寄りの金属の矢じりと、魔法攻撃寄りの木の矢じりと言うことになる訳だ。
 矢の作り方は教えても、この特性に関しては師匠は教えてくれず、アルドラと一緒に勉強してようやく発見したくらいだ。
 これを作るくらいなら、魔法を覚えろということだろうか?
 と言うか、アルドラもこの木の矢の特性については知らず、『狩人と魔法』という専門書を一緒に読んで初めて知ったと言うくらいだから、余程需要が無いのだろう。
 ともかく、わざわざ本で調べてこの矢を作ったのには訳がある。

「……よし」

 先ほどと同じ訓練を、矢を番えながら行う。
 俺の視線の先には丸太でつくられた的が置かれており、それを森の中を走りながら狙い撃つ訓練だ。
 いくら速く走れても、それを逃走だけじゃなく攻撃にも使えなければ無駄が多い。
 せっかく位置取りを有利に出来るのだから、剣でのヒットアンドアウェイだけじゃなくて、弓での高速戦闘も出来た方が良いという考えだ。
 これも師匠を相手にしていた時には出来なかったことだ。
 師匠が最低限として教えてくれたことは、生き延びるための戦い方。
 つまり、防御を主体とした戦い方であり、格上を相手に攻撃を捌きながら反撃する、もしくは相手が攻撃できない状況を作って仕掛けるものだ。
 防御の状態から機を見て攻撃に移るか、最初から最後まで攻め続けるか。
 当たり前のことだが、常に優位な状況で戦えるように訓練されてきたのだ。
 結果的に攻め込んで相手を倒すのに何で防御主体なのかと言えば、相手の攻撃を防げる回数が多ければ多いほど、反撃のチャンスは多く訪れるからだそうだ。
 そのチャンスを掴むための防衛能力と相手の隙を的確に見つける観察眼の獲得のために、あの滅茶苦茶な訓練を行っていたと言う訳だ。
 俺が今やっていることは、師匠から言わせればあり得ない状況に陥ってしまった場合の戦い方。
 どうしても倒さなければならない標的を相手に弓を構えている最中に、別の敵に近づかれてしまい魔法や剣を準備する余裕もない状況という想定の下で行っている訓練だ。
 言いかえれば攻撃の体勢、防御がおざなりな状態からの防御、それからまた攻勢へと戻すための訓練。
 この状況の場合、標的を逃すわけにもいかないから弓を手放せない。
 一概にそうとは言い切れないかもしれないし、これがちゃんと想定したような事態で活きるのかは分からないが、それでも選択肢は多く選べた方が良い。
 闘技場ではすでに何度もやってきた訓練だが、実際のフィールドで出来ないと意味がない。
 念には念を。これはそのための訓練だ。
 一射、二射と放つたびに、木の的から快音が聞こえてくる。
 それから走りながら三射目を準備するが……

「おわっ!?」

 また足を踏み外し、落下していく。
 その瞬間、俺は番えた矢を下に向ける。

「“爆風矢”!」

 気を込めた矢を下に放ち、先程と同じように体を浮き上がらせる。
 今度は上手くいき、特に大きな怪我もなく地面に着地する。
 とまあ、こういった具合で矢を使うもんだから、自分で作ってコストを下げるために使っていると言う訳だ。
 仮に折れたとしてもまた作れるし、余ったとしても今度は幽霊対策になるしメリットも多いしな。
 本当は幽霊対策には加護を乗せやすい銀の矢が一番なのだが、あんな高価なものをそう易々と揃えられるもんじゃないし。

「……ふう」

 一つ深呼吸をして、息を整える。
 さて、もう一度だ。
 一息でせめて六射出来るようになるまでは練習しないとな。


 * * * * *


「……いってえ」

 何とか、連続で六射くらいは出来るようになった。
 まあ、身体能力的に出来るようになっているのは確かだから、後は感覚を掴むだけだ。
 慣れてしまえば、そこまで難しいものでもない。
 今のところ五回連続で六射以上出来るようにはなっている。
 だが、それまでの間に少なくとも二十回は落下した。
 足を踏み外したのもあるし、着地する枝の選択を誤って枝を折ったこともあった。
 おかげで今日は既に八本の回復薬が俺の胃に消えた。
 自分であの薬の調合が出来なかったら、お財布にも大打撃が加わっているところである。
 はあ……マンガの忍者たちのような動きが出来るようになるまではまだまだ遠そうだ。
 だがまあ、今回はこれくらいにしておこう。
 折角一人で人気のない森に来たからには、やっておきたい練習があるのだ。

「……こんなもんか」

 丸太の的を、七本ばかり近くに寄せて立てる。
 俺はそれから離れたところでその方角を向く。
 当然ながら、森の中なので間には何本か木が立っており、全ての的を一直線で狙うのは難しい状態だ。
 だが、今回使うのは弓では無い。
 これから使うのは、人前ではそうおいそれとは使えない、本来俺が最も得意としている武器だ。

「さてと」

 俺は手の中に、久しく握っていなかった拳銃を呼び出した。
 呼び出した銃は、M1911。
 何でこいつにしたのかと言うと、こいつは45口径の拳銃で威力が比較的高く、重量が重いために体感する反動が軽いという特徴があるからだ。
 まあ、体感する反動が軽いと言っても、やっぱり38口径よりは反動は大きいし、銃自体の重量が重いのは欠点ではあるが、逆に言えばそれを制御できれば38口径も制御できるだろう。
 それを呼び出してすぐに、俺は見えている分の的に向かってトリガーを二回引いた。
 小さな破裂音と共に、的から木片が飛び散るのが確認でき、命中したのだと知る。
 ……よし、こっちの腕もそう鈍ってはいないようだ。
 銃の重量は俺自身の身体能力が向上しているためにそんなに問題にならないらしい。
 だが問題は、弓との差をどこまで詰められるか。
 弓と拳銃は弾道が違う。
 山なりに飛んで行く弓矢と、ほぼ直線で飛んで行く銃では狙い方も違うのだ。
 それにもう一つの問題が、実銃の重さと発射時の反動。
 ゲーセンのガンコンと違い、鉄の塊である実物の拳銃はそれなりの重さがあるし、火薬が爆発するものだからその反動もある。
 それを制御できないと、素早く連続で相手を狙えない。
 弓より素早く連射出来るのに、狙いが定まらないんじゃ宝の持ち腐れと言うものだ。
 今だって抜き打ちは上手く行ったが、二射目は銃の反動で狙いが若干上に逸れた。
 若干と言えば小さく聞こえるが、実際は距離がある分だけ小さなずれでも遠くでは大きなずれになる。
 今回の結果を例えるならば、心臓を狙ったのに頭に当たったという位の差になってしまうのだ。
 これでは、正確に狙えているとは言えない。
 確実に相手を素早く無力化するためには、この誤差を抑えられるようにならなければダメだ。
 幸いにして、俺が使える弾丸の数は無限だ。
 色々と試したいこともあるし、納得が行くまで練習をするとしよう。
 ……こりゃ、思ったよりも時間が掛かりそうだ。
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