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夢追い浪人の途中下車

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「神頼みで人捜し」
始まりの町にて2

空飛ぶ迷い人とストーカー

 ←花映塚:(相変わらず懲りない)銀の月、また怒られる →花映塚:銀の月、情報を集めに行く

 今日も今日とて闘技場へ行く。
 さて、今日は何をしようか……
 アダーラに教えたことの復習も兼ねてナイフでやるか、久々に弓でやるか……いやいや、カトラスを振るって戦うのも捨てがたい。
 ナイフと言えば、投げナイフも練習しておきたいし……素手での格闘と言うのもある。
 う~む、どれも鍛えておきたいぞ。
 一応全部装備した状態で、相手見てどれにするか決めるかな……

「ああ、スバルさん。今日は対人戦の挑戦状が届いていますよ」

 そう思って受付に行くと、受付がそんなことを言い始めた。
 おや、ここってそんなことも出来るのか?

「対人戦?」
「はい。これがその挑戦状です」

 受付はそう言いながら俺に紙を渡す。
 Aランク相当の相手か……差出人の名前は、シセロ・ロッシーニ。
 名前自体に覚えはある。
 何しろ、俺が注意しておかなきゃいけない相手として、個人でAランク以上の人間は全て記憶してあるからだ。
 こいつはアルドラと同じく魔導師だ。
 だが、俺はこいつを闘技場の中で一切見ていないし、ギルドでもそれらしき人物を見たことが無い。
 つまり、全く面識のない相手だと言うことだ。
 ……ったく、アーリアル様の加護ね。
 強い人間と出会いやすくなるってことはこういうことも起きるってことだ。
 いずれにしても、高ランクの魔導師、それも人間を相手にするのは良い経験にはなるだろう。

「受けられますか?」
「ああ。何事も経験だからな」
「そうですか……相手もAランクですが、頑張ってくださいね」

 俺の返事を聞くと、受付嬢は何やら歯切れの悪い返事でそう返した。
 ……何か訳ありの相手なのだろうか?
 いや、だがそれならその前に何か言うだろう。
 さて、指定された闘技場へ向かうとしよう。

「やあ、スバル。私のことは知ってますね?」

 俺が闘技場へ向かうと、金の刺繍が入った白いスーツを着た黒い髪の男が慇懃な様子でそう声を掛けてきた。
 う~ん、年齢は確か四十二歳だったと思うが、年相応の顔つきだ。
 身体は細く、頬はこけており、その目はどことなく陰険な雰囲気が漂っている。
 その手に持っているのは長さ六十センチくらいの杖で、恐らく材質は金、その先端に嵌っているのはダイヤモンドだと思われる。
 ……金持ちでプライドは高いって感じだな。恐らく、貴族出身なのだろう。

「流石にAランクともなればね。シセロ・ロッシーニ」
「貴方が逃げなくて安心しましたよ。最近は誰も彼も逃げますからねえ。あのアルドラ・シリウスも、最近やってきたリカルドとか言う人も来ませんでしたし……」
「単純に予定が合わないだけじゃないか?」
「ハッ、言い訳ですよ、それは。私がが怖くて逃げだしたに決まってます」

 ……抑えろ、俺。
 こいつがどんな奴か知らないが、いくら無礼だからと言ってもまだぶん殴るには早い。
 アルドラやリカルドがこいつより弱いとは思えないが、とりあえずは言いたいだけ言わせておこう。

「まあ、どうでもいいか。で、何で俺と戦おうって思ったんだ?」
「私、ちやほやされる人が大嫌いでしてね……だから、少し思い知らせてやろうと思いまして」
「……正直な奴。闘技場で戦うのは、自分の方が強いって思い知らせるためか」
「はい。のこのこ出てきてくれて助かりますよ」

 俺に下卑するような目を向け、にやけ顔でそう言い放つシセロ。
 こいつ、自分が俺より強いと信じて疑っていないな。
 ……何と言うか、怒りを通り越して呆れ果てるばかりだ。
 慢心は戦う上で最も忌避すべきものだって言うのに、そんなものを全面に出されたらね。

「まあ、それもどうでも良い。さっさと始めようぜ」

 そう言いながら、俺の口から大きなため息が零れだす。
 もう勝敗なんてどうでもいいし、精々魔法の対処法を試すとしよう。
 そう思っていると、奴のにやけ顔が急に消えた。

「……貴様、何だその目は?」
「は?」
「気に入らねえ、気に入らねえ! 貴様! 俺のことが眼中にねえって目をしてやがる!」

 突如激昂し、恫喝するようにそう言い放つシセロ。
 流石に訳が分からない。
 いや、確かにそう思っていたのは事実ですがね、修行は出来そうな相手くらいには思っているのですが?

「おいおい、流石に言掛かりじゃないか?」
「うるせえ! さっさと得物を出しやがれ!」
「……面倒くさい奴」

 癇癪を起した奴の言葉に、俺はカトラスを抜いた。
 う~む、やる気のなさを前面に出し過ぎたか?
 とにかく、俺の態度は相手の逆鱗に触れるようなものだったらしい。
 真面目に面倒くさい。
 その態度の原因は、アンタにもあるんだっつーの。

「一瞬で終わらせてやる! “破滅の燐光デストラクト・ルミネス”!」

 相手はそう言うと、青白い光を放つサッカーボール大の球体を六個ほどこちらに飛ばしてきた。
 その速度はあまり早くなく、それこそ蹴り飛ばされたサッカーボールくらいの速度だ。
 受けても良いが、どうにも嫌な予感がする。
 ついでに言うと、光が強くて相手の姿が見えない。
 ここは回避一択だな。
 そう言う訳で、俺は横へステップして回避運動を取る。
 だが青い光は地面に着弾する直前、突如として特大の閃光を放ち大爆発を起こした。

「うおっ!?」

 敢えて吹き飛ばされることで衝撃を殺し、飛んでくる熱線をマントに気を通して防御に回すことで受け止める。

「っ……!」

 マント越しに焼けつくような熱風を感じると共に、それを突きだす腕に火箸を押しあてられたような痛みが走る。
 ふう……多少腕は焼けたが、損傷は軽微。それ以外のところにダメージはない。
 だが、あれを受け止めようなんて思わなくて正解だ。
 まともに受けてたら、間違いなく俺は黒こげになっていただろう。

「ふぅ……悪かったな、一瞬で終わらなくて」
「な、なに……?」
「アンタ、俺の戦い見てないだろ。当たらんよ、あれくらい」

 何やら動揺している相手に、俺は余裕を持ってそう言い放つ。
 元より冷静さを欠いている相手だ、もっと怒らせて魔力切れを狙っても良い。
 魔法自体の威力は高いが、単純にそう言った魔法をこちらに向けて撃つだけしか考えてなさそうだし。
 そう思って相手を見ると、相手はぷるぷると震え始めていた。

「貴様、何故俺に攻撃をしなかった?」
「お?」

 どうにも、攻撃が飛んでこなかったのが余程御冠になることだったらしい。
 あんな攻撃をしておいて流石にこれは理不尽が過ぎるが、どうやら余裕の様子を見て俺が自分を舐めていると、そう思った様だ。
 うわぁ、単純な奴。
 この男、思考のほぼ全てが自尊心で出来ているんじゃなかろうか?
 はっきり言って、俺はこれっぽっちも舐めてはいない。ただやる気が失せているだけだ。

「見下しやがって! “烈光の投槍ルーミス・ジャベリン”!」

 怒鳴り散らすようにそう言いながら、奴は光の槍を俺に一つ発射してきた。
 今度は先程と違い、弾丸のように鋭く速く飛んでくる。
 しかし、相手は追加の攻撃を放ってくる様子は一切無い。
 ……ハッ、俺ごときこれ一本で十分だってか?

「見下してんのはそっちだろうが!」

 俺はそう言いながら剣に気を込めて光の槍に叩きつけた。
 あの魔法、速度は速いがそれだけだ。
 確かに食らってしまえば、手にした剣が伝える熱が教えてくれるように焼け爛れるのだろうが、実際の光の速度で迫って来るわけじゃないから弾こうと思えば弾ける。
 似たような魔法に師匠の魔法があるが、あの魔法はものすごく重たい一撃だったのに比べて、元が光のせいか衝撃は非常に軽かった。
 ホント、舐めくさってる。
 魔法の速度をあてにして一本だけ放ってきたんだろうが、生憎ともっと速い技を知ってる身としてはあの程度の技に当たってはやれん。
 そもそも、ここのモンスター共を相手にしていれば、あの程度の速度の攻撃なんて普通に飛んでくる。
 見ると、相手はさっきの一撃を真正面から防がれたせいか、また震えだしていた。

「な、なあっ……」
「なにぼーっとしてんだよ。まだ終わってないだろ」
「くそぉ!」

 俺が挑発をすると、今度は先程よりも小さな槍を詠唱も無しに多数飛ばしてきた。
 ちっ、魔法を解除しない限り連続で放てる魔法だったか。
 だが、馬鹿正直に俺を狙ってるせいで、避けること自体は楽なものだ。

「よっと!」

 場内を駆け回り、時折当たりそうになる奴を剣で消して対処する。
 光の槍はまるでマシンガンの様に飛んでくるが、対処は容易い。
 脚を狙って来ようが頭を狙って来ようが、密集して飛んでくる攻撃を読むのは容易いし、かといって複数個所狙われても今度は散発的になって簡単に掻き消せる。
 普通なら脅威になるような速度なのだろうが、生憎とこの速度には慣れている。
 右手にカトラス、左手になんか適当なナイフの組み合わせで十分だ。
 ん~……少し前の俺が今の俺を見たら、絶対化け物扱いしているな。

「うわっとと!?」

 等と余裕をこいていると、気づけば壁に激突しかけていたのでそれを蹴って方角を変える。
 壁から勢いよく離れると、少し遅れて弾丸が着弾したような連続した破裂音が聞こえてくる。
 その場所をちらりと見てみると、当たったであろう壁が破裂したかのようにえぐられていた。
 あの魔法、速度だけじゃなくて威力もかなりあるようだ。
 危ない危ない、少し注意が足りなかったか。
 しかし、飛んだり跳ねたりすると、自分の身体能力が可笑しいことになっていることをますます実感する。
 日ごろ感覚を掴むための訓練をしているが、こんなことになるあたりまだまだ修行が足らんようだ。

「この、大人しく喰らえよ!」
「こんなの喰らってたら、それこそ師匠に殺されるな!」

 頭をガシガシと掻き毟りながら攻撃してくる相手に、俺はそう言い返す。
 すげえな、あいつ案外余裕じゃん。
 魔力切れを心配するような攻撃方法だが、この様子じゃそれを狙うのは骨が折れそうだ。 

「このこのこのっ!」
「当たるか、そんなもん!」

 顔を真っ赤にした敵は時折、巨大な槍をこちらに投げてくるが、それも俺の剣に阻まれる。
 でかい分だけ魔力が込められているせいか、こいつだけ速度が速い。
 なかなかに威力のある弾幕を敷きながらこれが放てるのだから、やはりAランクを取れるだけの魔力は持っていると思った方が良さそうだ。
 逆にメンタルが非常に弱いことを考えると、魔力の強さだけでここまでやってきたある意味凄い奴なのかもしれない。
 う~む、おちょくり回しているが、正直このまま回避だけを続けていてもジリ貧だ。
 それなら、ちょっと試しにあれをやってみるか。
 そう思っていると、丁度相手の頭上に先程から俺を正確に捉えている大きな光の槍が見えてきた。
 よし、あれを相手に試してみよう。

「……そらっ!」

 飛んできた槍に、俺は気を込めて横薙ぎに剣を叩きつけた。
 すると、光の槍は音叉を叩いたような音と共に弾き飛ばされ、今度は術者にめがけて飛んで行く。

「あがぁっ!?」

 そしてそれは相手に突き刺さると、受けた本人はその場に倒れて動かなくなった。

「……え?」

 それを見て、今度は俺が固まる。
 ……あれ、俺、今単純に弾き返しただけだよな?
 自分で魔法を制御しているなら、自分に届く前に解除することも出来たはずだよな?

「おい、マジかよ……」

 俺は近づいて、相手の安否を確かめる。
 だが、見事に背中にまで何かが貫通した跡があり、傷口付近の布地が焼け焦げていた。
 あ~……撃っていた魔法の速度が災いして、制御が間に合わなかったってか?
 何と言うか、これはこれで拍子抜けだ。
 ……まあ、良いか。とりあえずは今日のところは退散しておこう。




「あ~あ、やっちゃいましたね……」

 逃げるようにロビーに出てくると、そこにはため息をつく亜麻色の髪のメイドの姿があった。
 言うまでもなく、領主のメイドにして俺の教え子である、アダーラ・シリウスその人である。

「お、アダーラ。来てたのか?」
「はい! お昼休みの闘技場巡りは私の日課ですから!」

 アダーラは嬉しそうに笑いながらそう口にした。
 大方俺に会えて嬉しいってことなんだろうが、それに関してはいつものことだ。
 それよりも、俺がいったい何をしでかしたのか、それが重要だ。

「それで、俺なんかやったのか?」
「ええ……あのシセロって人、有名な闘技場荒らしでして……」
「いや、でも俺勝ったぞ?」
「その方が問題なんですよ……あの人、一度負けたら徹底的に相手のことをつけ回すんですから……」
「マジか……面倒くせえ……」

 俺が質問をすると、アダーラは苦々しい表情でそう答える。
 ……成程、それを知ってりゃアルドラもリカルドも逃げるわ。
 はぁ……つーことは、奴に対しても何らかの策を講じにゃならんってことか……

「それにしても、シセロさんってあれでも結構強い人だったんですけどね……」
「あ~……確かに、あの魔法は喰らってたら中々にきつかったかもな」
「それがあの人、前はもっと色んな魔法を使って、上手く相手を追い詰めてたんですけどね……久しぶりすぎて、忘れちゃったんでしょうか?」

 アダーラはどことなく残念そうにそう話す。
 と言うことは、あいつはあれで随分と弱くなったってことになる。
 確かに、言いたいことは分かる。
 頭に血が上らず、余裕を持って相手にあたれるとなれば、あの魔法の威力と魔力量は脅威だ。
 魔法もあれだけとは考えられないし、もっと幅広い戦術が考えられたはずなのだ。
 しっかし、忘れるほど長く戦いから離れていたのだろうか?

「そんなに久々だったのか?」
「誰も相手してくれなくなりましたからね。かれこれ、五ヶ月ぐらい誰も相手にしていないはずですよ? それまでは、挑戦状を送った相手には大体勝ってましたし」
「つーことは、勝つことが当たり前だったからこそのあの反応か……」
「ですかねえ? 魔法が当たらなくて、呆然としてましたし……」

 俺の言葉に、アダーラは腕組をしながら首をかしげた。
 つまり、本当に感覚を忘れるほど戦いから遠ざかっていたと言うことか。
 プライドが高すぎる故に自分を磨かなかったのか、それ以外に何か事情があったのか……

「……ま、立ち直ってくれれば御の字だな」
「そうですね」

 そう言いながら、アダーラは深く頷いた。
 ここでの試合の大ファンである彼女がここまで同意するってことは、全盛期のあいつは余程強かったのだろう。 
 う~む、しかしどうにも気になる。
 あのシセロと言う男、五ヶ月間も闘技場に来ていないと言うよりも、五ヶ月間戦っていない、つまり冒険者として働いていないと言うように見える。
 俺を相手に油断していたのかもしれないが、それにしたって戦術の切り替えが遅いと言うか出来ていない。
 確かに俺も煽るだけ煽ったが、戦い続けていれば魔法を弾き返してくる相手も居ることくらい理解できるはずだ。
 あれほど苛烈な魔法が撃てるのに、冒険者ではないと言うことか?
 そうでないと、五ヶ月間何の収入も得られていないことになる訳だし、気になるところだ。
 見たところ貴族出身で金があるから、別に金には困ってないと言うことか?
 だが仮にもし彼の仕事が冒険者とは別だとしたら、それはそれで恐ろしい才能を彼は持っていたことになる。
 一人であのレベルに至るのは、余程才能があるか俺みたいに特殊なケースくらいのものだろう。
 ……俺が言うのもなんだが、非常にもったいない。
 魔導師として真面目に修行していれば、アルドラと肩を並べるほどの実力者になっていたかもしれないのに。
 立ち直ってくれれば御の字と言うのは、俺の本心だ。
 その後にまた俺に勝負を挑んでくるならば、敬意を持って迎え討ちたいものだ。
 しかし過ぎたことを惜しんでも仕方がない。
 それよりも、あいつがいったいどんなことを俺にしてくるのか……

「ところで、つけ回すってどんな感じなんだ?」
「もう完全にストーカーですよ。見かけたと思ったら、もう一日中後をつけてくるんです。それが嫌になって、その人は町から出て行ったくらいです」
「ほう……」

 アダーラの言葉を聞いて、俺は考える。
 ふむふむ、つまりこれから俺には純然たる悪意を持った人間が俺の後をつけてくるってことか。
 ……これ、実は使えるんじゃないか?

「……何考えてるんですか?」
「いや、ちょっとした悪戯だよ」

 下から顔を覗きこんでくるアダーラに、俺は笑みがこぼれるのを感じながらそう返す。
 それを聞いて、アダーラは怪訝な表情を浮かべた。

「何するんですか?」
「いや、悪戯と言ってもただの修行なんだがね」
「修行、ですか?」
「ああ。実は、そろそろやっておかなきゃならんと思ってた奴があってな」

 修行と聞いてキョトンとした表情を浮かべる彼女に、俺はそう告げる。
 俺が考えていることは、とある一定の状況に置いて非常に重要なもの。
 この先旅をすることを考えると、いつかは訓練しておかなければならないと思っていたものだ。
 それを知ってか知らずか、アダーラは大きなため息をついた。

「はぁ……それ、どこでやるんですか?」
「少し離れた平原だな。そこに行くまでが修行だ」

 何のため息かは知らないが、修行の内容はこういうものだ。
 それを伝えると、アダーラは更に大きなため息をついた。

「……スバルさん。修行大好きなのもほどほどにしておいてください」

 そう話す彼女の眼は、実に冷たいものだった。
 ……あれ、俺何かやらかしたか?



「さてと……」

 アダーラと別れてからしばらくして、俺は街の入り口に立っていた。
 ちなみに、風の探知機には俺の後をずっとつけてくる何かが引っかかっている。
 だが、これは想定内のこと、むしろ付いて来てくれないと修行にならん。
 さて、今日はいつもと違う方法で平原へと向かうことにしよう。

「“飛翔フライング”」

 俺は呪文を一言唱えると、身体から重力が消えてふわりと体が宙に浮き、段々と向かい風が強くなっていく。
 普段走り回ってばっかりだから、この魔法を使うのも久々だ。
 今にして思えば、これを現実世界でやったらピーターパンというあだ名がつきそうだな。
 さてと、奴は……よし、ついてきた。
 空を飛ぶって言うのは魔法に基本だから、流石に出来るだろう。
 さて、ここで俺のやる修行の目的を明かしておこう。
 俺がしたいのは、この魔法で戦闘機の動きを再現できるかどうかと言うことだ。
 可能な場合少なくとも出来るようになって置きたいのは、バレルロールとかインメルマンターンとか基本的なことだ。
 ……まあ、どういう奴かと言うと、回避行動ということだ。
 魔法だと流石にジェット戦闘機はおろかレシプロ戦闘機程度の速さも出ないし、精々出てても時速ニ百キロ程度だ。
 この速度は、地図の縮尺と実際の移動時間から計算したものだから、ほぼ間違いない。
 随分と早いようにも思えるが、我が師匠曰くこの世界の鳥達は本気を出すと水平飛行でこの速度を叩きだすらしい。
 ちなみに、元の世界のハヤブサの水平飛行速度が約百八十キロ、狩猟時の瞬間速度は三百五十キロを超える。
 と言うことは、この世界で空から急降下攻撃してくる奴はレシプロ戦闘機並の時速五百キロ越えで突っ込んでくると言うことだ。
 人間が強化されているのなら、他の動物達も強化されていると言ったところだ。
 そんなところに、便利だからと移動のために空を飛ぶのが俺達人間だ。
 当然、空で自分よりも空戦能力に優れた奴らに出くわすこともある。
 しかも厄介なことに、こちらは魔法を使って空を飛んでいるために魔法での迎撃がほぼ不可能であり、一方の狩猟者の方は強力な息やら魔法やらを使える奴も居る。
 更に言えば、気の方も満足には使えない。
 何故なら、こちらは視力の強化と言う大事な役割があるからだ。
 これをやっておかないと、遠くからこちらに向けて突っ込んでくる相手への対処に遅れる。
 何しろ、進行方向から飛んできた……分かる人にはヘッドオンの状態とと言えば良いか……その状態だとしたら、その体感速度は時速五百キロを超えてくるのだ。
 しかも、こちらが上昇中で相手が急降下中だとすれば、それは優に七百キロを超えてくると言うことになるのだ。
 つまり、早く気づかないと気付いた次の瞬間にはタックルを食らう羽目になる。
 そう言う訳で、空中で鳥や飛龍を相手にするのは余程準備をしていないと出来ないのだ。
 この時に人間側に要求されることは、相手の攻撃を回避しながら地上に降り、迎撃または逃走の体勢を整えることである。
 追跡者にはその練習の礎になってもらおうと言う訳だ。
 では、まずは速度を上げていこう。
 俺が魔法の出力を上げると、後ろにぐっと抑えつけられる感覚と共に正面から当たる風の量が一気に増えていく。

「……!!」

 後ろを見てみると、俺が加速したのに気づいたのか、相手も加速してくる。
 う~む、もはや気付かれていようがお構い無しだ。
 そう言うことなら、思う存分逃げ回らせてもらおう。

「よっ……!?」

 まずは身体にどんな負荷が掛かるのか確かめるために、全力で飛びながら上ループをしてみる。
 早い話が、ジェットコースターで円を描く軌道を戦闘機でやるようなもんだ。
 このループって言うのは基本動作で、ここから色々な技に派生していくのだ。
 が、これがなかなかにきつい。
 どうやら、ループした時の半径が小さ過ぎたらしい。
 戦闘機みたいに機体が受けてくれるわけでもないので、それが全身に来る。
 速度から来る遠心力を背骨で垂直に受けることになるのだから、激しく逆エビ固めを極められているようなものだ。
 こりゃ、咄嗟の時にこの負荷で気絶して墜落死なんていう笑いごとにならない事態も起きそうだ。
 その後、上下左右のループを繰り返し、自分に無理のない最小径のループと、最適な速度を探り出していく。
 とは言うものの、下ループに関しては高度に気を付けないと、ループ中に地面に激突する可能性があるからそのあたりのことも考えねばならん。

「Yahoooooooo!」

 それにしても、この空を飛ぶ感覚ときたら!
 耳に響く風切り音、全身にうける風、そして旋回する時に感じるG!
 まるで自分自身が戦闘機になった気分だ!
 良いねえ……何と言うか、空の男のロマンを感じる。
 ……とまあ、ループ中にそんなことを考える余裕があるほどには、余計な負担の無い速度と旋回半径は掴めてきた。
 これで、ようやくスタート地点だ。
 さて、このループからの派生技がインメルマンターン、スプリットSだ。
 インメルマンターンは上ループの頂点でロールし、そのまま元の進行方向から百八十度ターンをする技。
 スプリットSはそれを下ループで行うものだ。
 これを斜めに左右四十五度の角度をつけてやると、それぞれシャンデル、スライスバックという。
 使い分けなんだが、前者は高度が欲しい時、後者は速度が欲しい時に使われる。
 戦闘機における高度って言うのは速度の貯金みたいなもので、相手よりも高度が高ければ基本的には有利になる。
 これは俺の体感だが、やはり人間の魔法においても重力加速による加速は有効なようにも思えるし、頭の中に入れておいた方が良いだろう。
 逆に言えば、上昇する時には速度が低下していくと言うことでもあるからな。
 これを利用した技にハイヨーヨー、ローヨーヨーという技術がある。
 ターゲットを追う時に、上昇したり下降したりすることで速度を調節するものだ。
 もっとも、生身の人間では空戦能力というものが乏しいから、滅多に使わん技術ではあろうけど。
 はあ……ちゃんと戦えるんなら、燕返しなんて言う技も使えるんだろうけどな……
 なお、こいつはおなじみの中二知識では無く、ゲームをやる時につけた知識だ。
 さてと、ここから先は追って来ている相手にちょっと協力してもらわないとな。
 相手の速度は加護付きの俺より若干遅い程度。
 ふむ、魔法に関して言えば、俺よりも優れていることは確からしい。
 ならば、ちょっと俺の前に出てもらおう。

「よっと!」

 俺は身体を若干傾け、斜め上方向に大きく螺旋を描く軌道をとった。いわゆる、ハイGバレルロールと言う奴だ。
 すると減速しきれなかった相手が、オーバーシュートして俺の下方を通り過ぎて行く。
 ふっふっふ、あの驚いた顔。ゲームだったらそのまま撃墜してやるんだがなぁ。
 そのまま急降下して速度をあげ、今度は俺が追いかける状態に移行する。
 相手は何とか俺を振り切って背後に回ろうと左右に急旋回を繰り返すが、当然そんなことをさせるつもりはない。
 俺も相手と同じように蛇行し、その背後を取り続ける。
 図らずも相手がジンキングの状態になった訳だが、速度に対して旋回半径が大きすぎる。
 結果、俺はかなり楽に後ろをついて行けるようになった。
 ついでに言うと高度もあまりないもんだから、降下による加速が使えなくて失速しかけてるし。
 まあ、失速しても落ちることは無いのが魔法の良いところだから、気にせずやってくるか。
 さ、そろそろ一回前に出てやるとしますかね。
 通りすがりに、手でも振ってやることにしよう。

「っっっっ!!!!」

 俺に遊ばれていることを理解したのか、相手は憤怒の表情で俺を追いかけはじめた。
 もう俺に追い付いて、手にした杖で殴りかからんくらいの勢いだ。
 ホント、単純な奴。
 それじゃ、一旦距離を置くために加速するとしましょうかね。
 スライスバックによって右斜め下に急降下することで加速して、そのまま百八十度ターンする。
 その後は軽く上昇しながら左右に旋回を繰り返していく。
 相手も俺を追いかけてくるが、どうにも力任せで旋回半径が大きい。
 おかげで俺との距離はどんどん開いて行くことになった。
 では十分に距離と高度が取れたところで、そろそろ仕掛けるとしよう。
 今度はスプリットSで垂直に下方ループし、十分な速度を得ながら反転する。
 すると位置関係としては、相手は俺の斜め上でヘッドオンの状態になった。

「あああああああ!」

 相手は全速力で急降下しながら思いっきり杖を振りかぶっていて、殴る気満々だ。
 でもまあ、そんなことさせる訳ないんですがね。
 俺はぶつかるちょっと前でもう一度スプリットSを入れる。
 すると、相手は俺を通り越して地面に突き刺さりそうになるのを何とか踏ん張って上昇に転じる。
 だが、その時には今度は俺が相手の背後をピタリと取り、さらに距離を詰めることになっているのだ。
 ふっふっふ、見たか、これぞ燕返しよ。
 まあ、正確には相手の針路の先に向けて旋回するリードターンって技の極端な場合なんだけどな。
 つまりどういうことかざっくりと言えば、相手がカーブするところをショートカットして見たりと言ったところだ。
 これを説明しようとすると長くなりすぎるので割愛だ。
 俺は再び急降下することで加速し、そのまま何とか高度を戻そうとしている相手の背後から近寄っていく。
 ふふふ……俺を見失ってるな。
 いくら速度があろうと、そうやって大周りを繰り返しているようなら近づくのは簡単だ。
 さてと、死角から近づいてっと。

「おりゃ」
「がっ!?」

 追い越しざまに、俺は相手の頭を軽く小突く。
 よっしゃ、これで撃墜マーク一つ目だ。

「貴様ああああああ!」

 再び俺を追いかけまわし始める相手。
 そうだ、もっと掛かって来い。
 この魔法の使えない空戦で、俺と関わるのが嫌になるほど弄りまわしてやる。
 その後、俺は散々に相手をいじめ倒し、先に魔力切れを起こした奴の負け犬の遠吠えを聞きながら街へと帰った。
 あー、すっきりした。
 これに懲りて、俺と関わるのをやめていただけたら幸いなんですがね。






* * * * *

 修行馬鹿は今日も元気に修行中です。
 で、この馬鹿が現状どれくらいの強さに居るのかのその一端が見えるのが前半の試合部分です。
 気違いなほどに修行を積んでいる今、こういった相手にはもう結構簡単に勝ててしまうんです。
 何気にちゃんとした対人戦は今回が初ですし、そう言ったことは分かってないんですね、彼。
 大体、将志がサイクロプスくらいなら楽に倒せると言ったことだって碌に信じていませんし。

 そうして、また新しい分野の修業を始める始末。
 地上だけに飽き足らず、空にまで足を踏み入れました。
 こやつ、あらゆる事態を想定しすぎて全く先に進めていません。
 言ってみれば、適正レベル15くらいのところを、レベル40くらいになってから行こうと思っているようなものですね。
 なお、作中で彼はゲーム知識と言ってましたが、もちろんAce CombatやWar Thunderです。

 それでは、ご意見ご感想お待ちしております。
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~ Comment ~

 

スバルくんブービー説浮上かな?ラーズグリーズとと戦えるとか名誉な事じゃないの。
しかし...修行バカ多いな?これ銀月とスバルで無限修行やらした方が...いや止められるか...
今回もお疲れ様でしたー

NoTitle 

>乙さん
修行馬鹿という点では、銀月と昴の二強ですね。
ギルバートやチルノは修行馬鹿と言うよりは銀月に負けたくないだけですし、将志は修行すれどもそれに囚われることはありませんからね。
それに対して、馬鹿二人は終着点が見えていないので、果てなき修行の日々を送ることになっているのです。
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