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夢追い浪人の途中下車

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今ここにいる人:

「神頼みで人捜し」
始まりの町にて2

二人の修行

 ←わーきんぐ・へる。 →ろくでもねえ年末年始。

 今日も俺の生活はいつも通り。
 闘技場でモンスター共と戦ったり、仕事帰りのアダーラに頼まれて夜間稽古をつけたり、二人揃ってアルドラから魔法を習ったり、一人であちこち走り回って修業したり。
 変わったことと言えば、この前から湧いて出たストーカーをあの手この手でおちょくり倒しているくらいだ。
 別になんてことは無い。
 ストーカーは無視していれば問題はない。
 と言うのも、奴は俺が直接手を出さなければ何かして来るわけでもなく、どうやら俺が何をしているのかを観察しているだけの様だったからだ。
 気色悪いと言えば気色悪いが、もう俺は人目に晒されるのは慣れたもんだ。
 特に怪しいことをしている訳でも無し、見たけりゃ見てりゃ良い。
 それで何か思うところが出来て、またアダーラが言うような実力を取り戻してくれるなら、それはそれで俺の修行相手が増える。
 ……自分でこんなこと言ってて何だが、俺ってこんな修行マニアだったか?
 だがまあ、もうそれは認めてしまおう。俺は修行を楽しんでいる。
 だって、自分が強くなっていくのを実感するのはすごく気持ちが良い。
 昨日までは出来なかったことが、どんどん出来る様になっていく。
 これまで勝てなかった相手に勝てるようになっていく。
 この快感は、言葉では言い表せない。
 今まで俺は強くなるために修行したり戦ってきたが、戦うために強くなるって奴の気持ちも分かるようになってきた。
 実際には無謀な相手に挑みかねない危険な思考だとは思うが、強さを求める上でこれほど後押しをするものはない。
 今にして思えば、ゲーセンでひたすらに同じゲームをやっていた俺も、全く同じ状態だったのだろう。

「やあっ!」
「グギャアアア!」

 そしてどうやら、アダーラはそれと全く同じ状態になっている。
 今現在、オークの攻撃を掻い潜り、相手の脚を斬って引き倒し、喉にナイフを突き刺して止めを刺したところだ。
 いや、正直に言うと身体能力自体は一般人にしては高いが、冒険者ほどじゃないんですがね。
 それを補って余りあるのが、今まで数多の試合を見てきたことによる戦術の幅と、折れない心。
 何しろ、アダーラの立ち回りは色んなバリエーションがある。
 俺に似せた立ち回りや、魔法を使うためのアルドラの立ち回り、挙句の果てには記録映像で見たリカルドの立ち回りなど、色々な冒険者達の立ち回りを参考にしているのが分かる。
 流石に全てを再現出来ている訳じゃないし、自分に合わなくて負けることも多いが、それでも初見の相手でもかなり対処できるレベルだ。
 しかも、負けたら負けたですぐに何がいけなかったのかを分析し、立ち回りを構築する。
 俺が教え始めてから一週間しか経っていないが、恐ろしい吸収速度だ。
 とは言えど、流石に経験不足だし、戦術に工夫を加えられないと言う課題はあるが、一週間という短期間でオークを危なげなく倒せると言うのは上々の結果だろう。
 ……恐らく、アダーラも俺の見ていないところでここで修行をしているのだろう。
 そうでなければ、こんなに早く攻撃してくる相手に対して対処できる気組みが出来るはずがない。
 一体いつの間に、そんな訓練を積んでいたんだろうか……

「……ふぃ~! やった、勝ちました!」
「お疲れ様。それじゃ、少し休憩だな。ほら」
「ありがとうございます!」

 控室に戻った部屋のベンチで、アダーラに飲み物を渡す。
 彼女は礼を言ってそれを受け居ると、一気に飲み干した。

「ごちそうさまでした!」
「いや、一気に飲まんでもな」
「だって、早く次に行きたいですから!」

 俺に対して、ぐいぐいと迫りながらアダーラはそう言ってくる。
 少々前傾姿勢が過ぎる。実戦では命取りになりかねないことである。

「落ち着け。その前に、習慣にしておくことがあっただろ?」
「あ、そうでしたね。点検点検っと」

 俺の言葉に、アダーラは周囲を確認してから武器の点検を始めた。
 本来闘技場での戦いには全く必要が無いが、実際に旅をするときには非常に大事なところだ。
 いざ戦いに挑むとなった時に、剣に亀裂でも入っていればそこからあっさりと折れるなんてことになりかねん。
 無論、そんなことになれば命に関わる重大事故だ。
 戦いが終わったら、安全確認をしてから武器の状況を確認し、次に支障があれば対策を考える。
 この必要性は、師匠から耳にタコが出来るほど聞いた話だ。
 そのチェックを終えて、アダーラはダガーを鞘にしまった。

「よし。これで次に行けますね」
「それにしても、凄いな。まだ一週間しか経ってないのに、全然オークの攻撃が怖くないんだな」
「そりゃあそうですよ。スバルさんの攻撃の方がずっと速くて怖いですから」

 質問をすると、彼女はそう答えた。
 ああ、成程ね。
 つまりは本当に俺と同じ状態な訳だ。
 しかし、アダーラが見ている攻撃と、俺が知っている最も苛烈な攻撃はレベルが違いすぎる。
 あの化け物みたいな神速の攻撃と俺の攻撃速度では、まだまだ月とスッポンほどの差があるはずだ。
 もし彼女に俺よりも強く速い攻撃が来た時に、冷静で居られるかは分かったもんじゃない。
 ……そうだな。次はこうしよう。

「じゃあ、次の修行に行くか。アダーラ、次は立っているだけで良い」
「え? 何をするんですか?」
「ちょっとした度胸試しと、俺の修行だ」
「はい?」

 キョトンとした表情の彼女を尻目に、俺は控室の片隅にある台座に向かい、青いベルベット布にくるまれたコインホルダーを取り出す。
 台座には縦にならんだ三つのくぼみがあり、俺はその一番上のくぼみにAと書かれた銀色のコインを嵌めた。
 三つのくぼみと言うところから予想がつくとは思うが、この闘技場、実は三つのモードがあるのだ。
 中央のくぼみがいつも使っている通常モード。下の段がここに現れる仮想敵の説明を入れてくれる教導モード。
 そして、上のくぼみが五回連続で戦う連戦モード。
 普通は一回戦闘したらその前の状態に戻るのだが、このモードでは終了後の状態で戦わなければならない。
 例えば十本の矢を持って五本で敵を仕留めた場合、普通はまた十本の矢で次に進むところを五本の矢で戦わなければならないのだ。
 つまり、それ以降のことを計算して戦わないと、何も出来ない状態で次の相手と戦うことになってしまうこともあると言うことだ。
 それに銀色のコインを嵌めたと言うことは、次々とランダムで敵が出てくると言う訳だ。
 それを見て、アダーラが俺に話しかけてきた。

「あの、スバルさん? いくらなんでも、私にAランクはまだ早いんじゃないですか? しかも、今連戦モードに入れませんでした?」
「だから、俺の修行だって言っただろ。とりあえず、中に入ったら地面に円を描くから、そこに立ってろ。で、その中だけで攻撃を捌け」
「で、でも、それだけじゃ絶対に避けられない攻撃もありますよね?」
「それをさせないのが俺の修行だ。まあ、俺も初めてだから攻撃がそっちに飛んできたらすまん」
「そ、そんなぁ……」

 俺の言葉に、アダーラは不安そうな表情でそう口にする。
 しかし、それからすぐに自分の頬を張り、力強い眼差しで俺を見返してきた。

「……いえ。信じてますからね、スバルさん」
「……上等だ。それじゃ、始めるぞ」
「はい!」

 とは言ったものの……正直、俺の方が不安だ。
 Aランクの相手とは何度となく戦っているが、俺に誰かを守りながら戦うって言う経験はない。
 だが、この先俺が何らかの原因でこう言った護衛任務を受けることにならないとは限らない。
 何より、捜し出した勇夢が戦えないようであれば、それを守ってやる必要がある。
 ならば、練習が必要だ。
 俺達は石造りの劇場の様な闘技場の中心まで入っていく。
 すると、周囲にビーストオークが十五体程現れた。
 ……成程ね。連戦モードだから、出てくる敵達は少しランクが下がるのか。
 このレベルだとBBランクだから、まずは肩慣らしと言ったところだ。
 それを確認すると、俺はカトラスで地面に円を描いた。

「じゃあ、ここに立ってろ」
「はい」

 アダーラがその中に入るのを確認すると、俺は素早く周囲を確認する。
 すると、俺達を確認したオークの内数体が、こちらに向けて弓を構えているのが見えた。
 その他の剣盾持ちも、俺達に向けて近づいてきている。
 弓兵はそれぞれがかなり離れていて、一網打尽にされることを明らかに警戒している布陣だ。
 ……避ける訳には、行かないんだよな。
 そう思っている間に、敵が弓を放つ動作が見えた。

「ちっ!“大旋風スピニングブロウ”」
「きゃっ!?」

 俺はアダーラを抱きしめると同時に、魔法を発動させる。
 すると周囲につむじ風が発生し、飛んでくる矢を吹き飛ばした。
 迫ってくるオーク達も、突然の強風にその場で立ち止まったり、転倒したりしている。
 咄嗟に組んだ魔法だから、相手に傷をつけることは出来ないが、元より防御のための魔法だ、発動が早いことにこそ意味がある。
 その間に、俺は剣を素早く鞘にしまって弓を手に取った。

「吹き飛べ、“風龍牙”!」

 竜巻を纏った矢が、大気を震わす轟音と共に弓を持ったオーク達へと飛んで行く。
 運悪くその射線上に居たオークも巻き込まれ、目標も吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。
 風の音が激しすぎて敵の声が聞こえないが、こいつらレベルではそうそう立ち上がっては来れまい。
 この技は弓使いの基本的な技にして、それくらいの破壊力があると自信を持って言える技なのだ。

「まだまだぁ!」

 続けて二発、竜巻の矢を放つ。
 目的は相手の矢を無効化しながらの敵の無力化、ただの矢では飛んできた矢に対処できないからだ。
 ついでに近づいてくる敵も近寄ってこれなくなる訳だから、こういう時には便利な技でもある。
 しかし、それで間に合わなかった弓兵二人が、再びこちらに向けて矢を放っているのが見えた。
 そのうちの一本は、アダーラを目掛けて正確に飛んできていた。

「このっ!」

 その矢を弓を気で強化して叩き落とし、お返しに竜巻の矢をくれてやる。
 退避した先が近かったもんだから、まとめて薙ぎ払うことが出来た。
 とりあえずこれで弓兵は無効化された訳だが、先のことを考えるとこれ以上矢を使う訳にはいかない。
 俺は背後に立つオークの気配を感じながら、振り向きざまにカトラスでそれを抜き討った。

「ブギャア!?」

 カトラスはしっかりとオークの腹を切り裂き、敵が沈黙する。
 だがそれを見届ける前に、アダーラの背後に三体程のオークが群がっているのが見えた。
 それを確認するよりも早く、俺は脚に力と気を込めた。

「でやあああ!」
「ギャッ!?」
「グギュ!?」

 小細工なしに自分の出せる最高速度で回り込み、背後から斬りつける。
 相手は皮鎧を着ているが、カトラスだってもろに斬撃向けの剣だ。
 少し気を込めれば、これくらい楽勝で斬れる。
 本当は相手が攻撃を仕掛けてきたところをカウンターとかしてやりたいが、今回は状況が状況なのでそれをしない。
 相手の隙が出来るのを待っている間に、護衛対象を攻撃されたらしょうもない話だし。
 自分で相手の隙を作るか、すでに空いている場所を狙って素早く倒さないと、護衛対象を危険に晒す時間が長くなる訳だ。
 ……しかし、こいつら俺の動きについて来られなかったのか、後ろを振り返ることすらしなかったな。
 前の時はそんなことはなかったが……こいつらがそれほど愚鈍だったのか、もしくは俺の速度が上がったのか……まあ、どちらでも良い。
 ともあれ、周囲に立っている敵はいない訳だし、まずは第一ステージをクリアと言ったところだ。

「うわ~、やっぱり早いですね、スバルさん♪」
「まだ終わってない。そう言うのは後だ」

 はしゃぐアダーラにそう言っている間に、次の相手が現れる。
 今度はの相手は白骨化した人型、要するにスケルトンの群れだ。
 奥の方には、杖を持ったスケルトンメイジの姿も見える。
 となると、使う武器を変えなければならない。
 カトラスでは無く、こう言った相手と戦うための加護付きの武器が要る。
 俺はカトラスを仕舞い、聖印の刻まれたダガーを二本取り出した。

「せやっ!」

 先ほどと同じく、スケルトンに速攻を仕掛ける。
 一体一体の力は、そう大したものじゃない。
 ゾンビよりは素早いが、普通のスケルトンなら一般のBランク冒険者と変わらない程度だ。
 だがこいつらは武器で倒すのにはコツがいる。
 聖印なしなら両手足と頭蓋骨、そして背骨を砕く必要があるし、あっても最低でも背骨か頭蓋骨を砕かなければ完全には倒せない。
 そうでないと、こいつらは多少の欠損などお構い無しにこちらへ向かってくるのだ。
 そう言う訳で、俺はダガーの柄でスケルトンの背骨を砕く。
 鈍い感触と共に背骨が砕けると同時に、骸骨の身体が光に包まれ、ゆっくりとただの骨に戻っていく。
 だが、その様子を悠長に眺めている暇などない。 
 相手の懐に潜り込んで前から、俺の後ろに回り込んだ奴の背後を取って後ろからと、休む間もなく攻撃を続ける。

「……っ!」
「させるか!」

 もちろん、アダーラを狙ってくる奴を倒すことも忘れない。
 と言うより、そちらが優先だ。
 う~む、速度に任せて何とかしているが、一人の時と倒す優先順位がまるで違う。
 俺一人なら最初から魔法を撃ってくる奴を狙えるんだが、自衛すら出来ない状態の味方が居るとそちらを守るのが先になる。
 今回は何とかなっているが、敵がもっと数が多かったり個々の能力が高かったりすると、恐らく失敗していたことだろう。

「……っ! はあっ!」

 頭上からくる風に魔法の気配を感じて、上を見る前にそちらに向けて気の塊を打ち出す。
 そこには雷を落とす黒い雲があった。
 淡い緑色の気の塊はその暗雲を吹き飛ばし、魔法を無力化した。
 が、その間に生き残っている他のスケルトンが俺達を目掛けて迫って来ていた。
 魔法を防いだ隙を狙った敵の攻撃を躱しながらアダーラのところまで走り、すぐそばまで来ていた奴らを蹴り飛ばす。
 しかし二人まとまったところに、十数体のスケルトンが殺到して来ていた。
 ちっ、魔法は間に合わない。つまりさっきの大旋風は間に合わんと言うことだ。
 そんなとき、ふと俺はとあるゲームでこんな状況になった時に、そのキャラで使っていた技を思い出した。
 ……一か八か、やってみるか。

「アダーラ、しっかり掴まってろよ!」
「は、はい!」

 アダーラをしっかり抱きかかえると、俺は脚に気を込めてそれを大きく振り上げた。

「退けえええい!」

 振り上げた脚を、地面を貫通させるかの如く思いっきり踏み抜く。
 その瞬間、俺の周りに足元から頭蓋にまで響くような下からの衝撃波が生まれ、周囲に居た奴らの身体が身の丈ほど跳ねあがった。
 それを確認して、俺はアダーラを降ろすと同時に右手に思いっきり気を込めた。
 次に思い浮かべたのは漫画の技。
 飛びこんできた相手を、まとめて空にかっ飛ばす事が出来る技だ。
 すると、頭の中に技名が浮かんできた。

「飛んで行きな! “天嵐昇龍”!!」

 俺が拳を上に突き上げると、砂埃を巻き上げながら空に向かって巨大な竜巻が発生した。
 近くに寄っていたスケルトン達はそれに巻き込まれ、空高く吹き上げられていく。
 そしてしばらくして彼らは地面に叩きつけられると、粉々に砕け散ってしまった。
 流石に全身の骨が砕けてしまえば、もう向かって来れないだろう。
 うわぁぉ。咄嗟に漫画の技を想像してみたら、本当に出来てしまった。
 やれやれ……中二病も馬鹿には出来ないな。
 まさか幼かりし頃に読んだ漫画の技を、この場で再現することになるとは思わなかった。
 よく考えれば、新しい魔法や技を作り出すのは想像力だ。
 漫画やアニメ、ゲーム界の偉大な先人達の作り出した技は、俺にとって十分に参考になるものなのだろうな。
 ……技名を口にしないといけないのが、中々に俺の心の傷をえぐってくるがな。
 それはさておき、残るは魔法を使ってくる一体だ。
 あいつは何やら詠唱動作に入っている。
 駆け寄るのは危険だし、弓に持ち替えている時間もない。
 気を放つのは早いが、こちらの消耗が大きすぎる。
 いや、待てよ?
 気を直接飛ばすのがダメなら、気を何かに変換して飛ばせば良いんじゃないか?
 俺は手にしたダガーに気を込めた。

「いっけえええええ!」

 ダガーを大きく振り抜くと、白い刃が風を巻き込みながら飛んで行った。
 それは速く鋭く、スケルトンへと向かっていく。
 そして、魔法を完成させた相手が杖を振り上げるその瞬間、相手の胴体を両断したのだった。
 成程……今まで試してなかったが、これが斬撃を飛ばす技か。
 普通に気を込めるよりはかなり消耗するが、以前試した波動拳よりかはまだ消耗が少ない。
 これ、カトラスだったらもっと消耗が少ないんだろうな。
 波動拳の一件でこの手の技を使うのをためらっていたが、これならまだ使っていける。
 う~む、やっぱり食わず嫌いは良くないってことか。
 強い敵だとこう言った技もどんどん使って来るわけだし、こちらも練習しておかなければ。

「グオオオオオン……」

 スケルトン達を掃討すると、すかさず次の敵が出てくる。
 続いて出てきたのは、大体身長が十メートルはあろうかと言う巨大なロックゴーレム。
 岩でできた人型の全身には溶岩の様に赤く光る線が走っており、心臓、左膝、右肩、左手のひら、そして後頭部にそれが集まる点が見え、実際には右足の裏にもそれがある。
 こいつ単体でAランクの代物で、なるほど確かにボスっぽい。ボスと言ってもまだ三戦目だから中ボスだが。
 ただまあ、こいつは弓を使うとかなり的なんですがね。
 何しろ、弱点がめちゃくちゃ分かりやすい。
 ご察しの通り、こいつらの弱点は線が集まる点。
 その光る点が個々の部位を動かす中枢になっていて、そこを攻撃すれば倒せるのだ。
 その部分は大体硬い宝石で、思いっきり攻撃しないとなかなか壊れてくれないから、ハンマーみたいな衝撃を与える必要がある。
 まあ、両手と両脚の奴は破壊されても動きが鈍るだけだから、本当に壊さないといけないのは心臓と後頭部の一際でかい宝石なんですがね。
 ついでに言うと、このゴーレムに使われている宝石って言うのはそれなりに値段が高いマジックアイテムで、リスクは上がるが回収できれば高値で売ったりできる。
 宝石を破壊しなくても、一度そこから伸びるラインを完全に切断して、再生する前に宝石を回収してしまえば良いのだ。
 そんな訳で、腕っ節の強い冒険者からすればこの手のゴーレムなんて金のなる木な訳で、あっという間に狩られてしまうのでした。
 ま、実際にはそれをやろうとして何人も死者が出ている訳でして、欲を出すと碌なことが無いと言うことを教えてくれる存在でもあるんですがね。

「スバルさん」

 ふと、後ろから声が聞こえてくる。

「何だ?」
「スバルさんなら余裕ですよね?」

 俺が振り向くと、アダーラは少しも怯えた様子も無くそう言ってのけた。
 むしろ、目の前でこれから起きることが楽しみで仕方がないと言った様子だ。
 ……やれやれ、これじゃあ俺の目論見は達成できていないな。

「まあ、そうだな」

 だが、ここまで全幅の信頼を受けて、何とも思わない訳では無い。
 俺がそう答えると、アダーラは嬉しそうに笑った。

「じゃあ、近くで見せてもらっていいですか?」
「上等だ」

 そう言って、俺は目の前のゴーレムに向きなおる。
 さてと、こう言った以上、無様な戦いは見せられない。
 どの道こいつが俺を相手に暴れ回るようになれば、その余波でアダーラも危険に晒される。
 なら、最速で終わらせてやろう。

「そらっ!」

 ゴーレムの顔面に、俺はアダーラから離れるように走りながら石を拾って投げつける。
 これは相手の標的がこちらに固定されるようにするもの。
 こいつは標的が複数いる場合、積極的に攻撃してくる奴を優先して迎撃する性質がある。
 だから、近づくのを恐れて魔法や弓に頼っていると、多少の攻撃ではひるまないこいつは前衛を易々突破していきなり後衛が攻撃を受けることになるのだ。
 そう言った意味では、かなり危険な相手ではある。
 が、慣れた奴だとそんなことは関係ない。
 俺は敵を確認して猛然と走ってくる相手を見据えながら、ナイフを仕舞って弓を取り出した。

「よっと!」

 振り下ろされる右の拳を、こちらも右に飛ぶことで躱す。
 速度はそれほどでもないが、その破壊力は地面を揺らし表面を砕くほどに強い。
 だが、当たらなければどうと言うことはない。
 しかもでかい分、懐に潜り込むことだって案外容易い。
 俺は空振りした隙を狙って身体の下に入り込み、直上目の前にある心臓を目掛けて矢を放った。
 もちろん宝石を砕くほどの威力を矢に持たせるのだから、またかなりの力を込めているもの。
 この至近距離で外すはずもなく、奴の心臓の宝石は見事に砕け散った。
 よし、まずはひとつ目。
 相手は受けた矢の衝撃からか、大きくひるんだ。

「グオオオオン!」

 相手はのけぞった状態から、腰を回転させて地表を薙ぎ払ってきた。
 もちろん、そんなものに当たる俺では無い。
 しっかりと間合いを取り、薙ぎ払いを躱す。
 俺の眼の前をゴーレムの巨大な掌が通り過ぎると、唸るような低い音と共に風が俺の頬を撫でつける。
 余裕はあるが油断は禁物。
 こんなもん喰らったら、いくら重装備だろうが一撃で戦闘不能になるな。

「グアアアアアア!」
「うわっと!?」

 そうして避けたところを、敵は一歩踏み込んで腰をひねり、回転の勢いをそのままに腕を上から叩きつけてきた。
 そうやって攻撃してきたところを、横に避ける。
 敵の一撃は空を切り、激しい地鳴りを引き起こす。
 俺はその伸びきった腕に飛び乗り、さらにそれを蹴って高く飛びあがる。
 ふわりと宙に浮かんだ感覚の中で、下を見る。
 すると大分遠くなった地面と、振り下ろした体勢から起き上がろうとしている相手の姿が。
 後頭部には、赤く光る弱点がよく見えている。

「がら空きだ!」

 そこに向かって、俺は二本目の矢を放つ。
 それは鋭くゴーレムの後頭部に突き刺さり、その中枢を粉々に破壊した。
 空中でバランスを取り、衝撃を受けるために脚に気を込めて着地する。
 もうこの着地も慣れたもんだ。
 最初はこれを失敗しては、脚を骨折してたし。
 まあ、そんなことよりも敵の様子の確認だ。

「ヴ……」

 ゴーレムは小さく唸りを上げると、そのまま停止した。
 そして、末端の繋ぎ目からただの岩に戻っていく。
 六つの宝石の内、中枢となる二つを破壊されたためにゴーレムとしての形を保てなくなったのだ。
 ふう……Aランク相当が出てきたってことは、ここからが本番ってことか。

「うわぁ~……」

 そう思いながらアダーラに目を向けると、彼女は茫然とした様子で立ち尽くしていた。
 はて、こいつが倒されるのがそんなに珍しいのか?

「スバルさん、今の技って、何です?」

 と思っていたら、そんな言葉が出てきた。
 何か眼がキラッキラしてらっしゃる。
 今の技、単純にジャンプして気を込めて衝撃力を増強した矢を放っただけだったんだが……

「技って言うほどのものでもないだろ?」
「でも、あんなことする人なかなか居ませんよ? 大体は、脚を攻撃して倒してから頭を攻めますし」

 アダーラは興奮した様子で俺にそう詰め寄ってくる。
 あ~……そういうこと。
 そりゃあ、別の問題でなかなか出来んだろうな。

「まあ、少々派手だったかも知れんがな。一応、修行の賜物だからな、あれ」

 これ、森や崖なんかを走り回って練習した技だんだよな。
 崖や木の枝から跳んで、下にある的を正確に打ち抜く訓練だ。
 どんな状況からでもちゃんと的に当たるようになるまで、何度も何度も失敗したし。
 矢を外すならともかく、的に集中しすぎて転落して足を骨折とか良くあることだ。
 それで消えた回復薬の数はもう数えていない。
 とりあえず、こういった咄嗟のときになんとか使えるレベルには漕ぎつけたから良しとしておこう。

「ガルルル……」
「グルルル……」

 ……マジか。
 俺が終わったと思って一息ついていると、また新しい敵が出てきた。
 出てきたのは真紅に黒い縦縞模様の入った毛皮の虎。
 俺も以前戦ったことがある、ブラッディータイガーだ。
 だが、こいつは一頭でAランク相当。それが目の前には二頭居る。
 どう考えても、Aランクの枠に収まる対戦相手では無い。
 え、連戦モードって、こんなことが起きるのか?

「何なんだ、これ?」
「スバルさん、この仕様知らなかったですか?」
「ん?」
「連戦モードって、一つ前の戦いの評価で次の相手が決まるようになってるんです。だから、さっきみたいに矢二本とかで倒すと、次の相手が一気に強くなるんですよ」

 少し混乱した様子のアダーラから、現状の説明を受ける。
 ……なんてこった、それを知ってたらさっきのゴーレムにもう少し時間かけたぞ、俺。

「それ早く言えよ……こいつら相手だと、俺だってガチ勝負になるんだぞ?」
「だって、知ってると思ってましたし……」

 マジ勘弁してもらいたい。
 ブラッディタイガーと言えば生命力の塊で牙や爪に凶悪な出血毒を持つ相手だ。
 一撃も喰らえない上に、耐久勝負を強いられるし、パワーもあってスピードもそこそこある。
 Aランクの鬼門と呼ばれる奴が、二頭も居る。
 それをアダーラを守りながらと言うのは、かなり厳しいものがあるぞ。

「ところで、この赤い虎、そんなに強いんですか? Aランクでごくたまに見ますけど……」
「少なくとも、一撃も攻撃を喰らえない相手だ。今はそれ以上話す時間は無い。死にたくなければ、騒がず相手を警戒しろ」
「え……」

 俺の説明を聞いて、アダーラの顔から余裕が消えた。
 まあ、見慣れないのも無理はなかろう。
 Aランクの試合で、こいつらを好き好んで指名して戦う奴はいない。
 四足歩行の相手の練習したいならもっと相応しい奴が居るし、こいつを相手にしても特に得られるものが無い。
 だが、それ以上にこいつらは実際に戦うとなるとこのランク帯では最悪の相手なのだ。
 剣士にしたってこいつは近づくこと自体が危険だし、弓や魔法を使う奴にしたって倒しきれなくて襲われるのが目に見える。
 しかもその攻撃を一発たりとも喰らってはいけないのだから、大変だ。
 今、そいつらは俺達の周りをぐるぐる回りながら獲物の見定めをしている。
 はっきり言って、実際に出くわしたら覚悟をしなければいけない状態だ。
 これが俺一人で一頭を倒せって言うんなら、そちらはまだ楽な話だ。
 要は近づけなければいい話であって、俺にはそのための手段がいくつかある。
 ただ矢を撃ちこむだけじゃなく、狙う場所や使う技が正確なら、倒しきれないことはない。
 しかし、今はそうじゃない。
 こいつら二頭を相手に、碌な抵抗も出来ないアダーラを守りながら戦わなければいけないのだ。
 すると、どうしても相手に近づく必要がある。
 なにしろ、一頭に的を絞って弓を引くともう一頭が襲いかかってくるし、アダーラを抱きかかえて空を飛んだりすれば弓も魔法も使えない。
 そうなれば、否応なしに奴らの爪や牙の届く範囲で戦うことになるのだ。
 ……こりゃ、本当に全力を出さないと、今の俺では無理だ。
 普段ここではあまり使っていない魔法も引っ張り出さないと、恐らくやられる。

「アダーラ、今回はこの円の外に出ても良い。でないと、やられる」
「は、はい」

 お互いに小さな声でそう言うと、アダーラは俺と背中合わせに立って周囲を警戒する。
 今までチーム戦も少なからず見てきたのであろう、即座にお互いの背後をカバーするという選択肢が出てくるのは良いことだ。
 むしろ、俺の方がそれに気づいていなかったし……アルドラみたいに組んで仕事をする相手も居るだろうし、最低限の行動は体で覚えていた方が良いだろうな。
 さて、ここまでは良いが、アダーラのこの様子の変わり様はいささか問題だ。
 今までは俺が守りきれることを前提で事に当たっていたのだろう。
 と言うことは、これまでの試合は練習になっていない。
 自分がいつ襲われるから狩らない恐怖、これに勝てるようになってもらわなければならないのだ。
 ……俺が師匠の様に強ければ、わざわざこんなことをする必要はなかったんだけどな。
 師匠の場合、大抵のモンスター共が可愛く見えるようなえげつない攻撃を、死ぬかもしれないと感じるギリギリのレベルで叩きこんでくるし。
 そうでなくとも闘技場の外であんなことが出来る技量があるのだから、今のアダーラの様に極端に恐怖心が薄れると言うこともなかったのだろう。

「ガゥ、ガウガゥ」
「グゥゥ……」

 二頭の赤虎は、交互に唸るような鳴き声を上げる。
 それはまるで、目の前の獲物をどう料理するかを相談しているようにも見えた。
 元居た世界の虎は一頭で狩りをするものだったが、こいつらはそうではない。
 ブラッディータイガーは自分よりもずっとでかい獲物や群れに集団で襲いかかって、その毒で失血死させて狩りをする生物だ。
 こいつらは群れによって狙う獲物が決まっており、言ってみれば群れのそれぞれが何かを狩るスペシャリストの集団なのだ。
 そして、その中には人間の集団も含まれる。
 今俺達の目の前に居るのは、まさに人間を狩るスペシャリストのはずだ。
 ……相手が襲いかかってくるとすれば、それは俺達が動いた時だ。
 何故なら、相手を取り囲むように回るこの動作は、相手がどの方向に逃げようがどちらかの攻撃が届くようにするためのもの。
 それを少しずつ半径を縮めながらやってくると言うことは、俺達に逃げる行為、つまり背中を見せるように仕向けるためのものだ。
 かと言って、安易に攻撃を仕掛けるのは非常に危険だ。
 相手の隙を突けなければ、避けられるどころか真正面からねじ伏せられ、そうでなくとも背後からもう一頭に襲われる。
 となれば……

「アダーラ、俺が背中をつついたら振り向いて俺に掴まれ」
「はい」

 緊張しきって、少し震えるような返事がアダーラから返ってくる。
 今大事なのは、この囲まれている状況を何とかすること。
 こいつらは賢い。
 命からがら逃げのびた冒険者の話では、相手がどんな状態にあるかを正確に見抜き、パニックになっている奴から確実に仕留めるだけの知能があるらしい。
 目立つ真っ赤な毛皮も、それを見せることによって相手に恐怖心を与えるためのもの。
 もし一頭を見つけてすぐに周囲を警戒しだしたとしても、その時にはもう他の仲間が近くまで忍び寄っているのだと言う。
 そこで慌てて声を上げた瞬間、その動揺を察知して一気に襲いかかられ、更にパニックになったところを畳み掛けられる。
 一撃でも食らわせてしまえば、後は逃げ回っている間に勝手に死ぬのを待つだけで良いのだ。
 だから、こいつらから目を離してはいけない。
 一瞬の隙が、文字通り命取りとなるのだ。
 ……だが、こういう相手を何とかするのも狩人の仕事だ。
 俺は呼吸を整えると、相手に目を向けたままアダーラの背中をつついた。

「っ!」

 その合図に、俺とアダーラは素早く振り返り、お互いに抱きつく形になる。
 それと同時に、俺は脚に気を込めて、高く跳びあがった。

「ガアアアアア!」

 対して、相手もすぐにこちらを追ってくる。
 元々人間よりもずっと優れた身体能力を持つ奴らだ、仲間を抱えた人間の跳躍くらい簡単に捕まえられる脚力を持っている。
 四、五メートルくらいの高さなら、届いてしまうのだ。
 しかも、追ってくるのは一頭だけ。
 もう一頭は、俺達が降りてきたところを狩るために地上に残っているのだ。
 だが、そんなことは想定の範囲内だ。

「“疾風”!」
「ガフッ」

 俺は地面を蹴ったのと逆の脚で、何もない空間を蹴る。
 するとその足先から風の弾丸が飛び出し、追ってきた奴の顔面を直撃して撃ち落とすと同時に、その反動で垂直に跳び上がっていたいた俺の身体が上斜め後ろへと軌道を変える。

「ギャン!」 
「フッ、フッ、フッ!」

 下方では、撃ち落とされた虎が地面に激突して悲鳴をあげ、地面に待機していた方がこっちに向けて走り出していた。
 しかし、着地を狩ろうったってそうはいかない。

「“風爆弾エアロボム”!」
「ガッ……」

 俺はあらかじめ準備していた魔法を炸裂させる。
 この魔法は指定した位置に風の爆弾を仕掛け、それを爆発させるもの。
 その衝撃は甲冑を凹ませるほど強力なもので、いくら頑丈なこいつと言えども至近距離で喰らわせれば脳震盪を起こさせるくらいの威力はある。 
 それを証明するように、大きな破裂音と同時に俺を追ってきた奴は吹き飛ばされて倒れている。
 その間に、俺達は闘技場の端に着地し、アダーラを放して素早く弓に矢を番える。
 狙うのは先程撃ち落とした方の虎。
 あの高さから落下した程度ではほぼダメージは無く、既にこちらに向けて走り出していた。

「させるか、“爆風矢”!」
「グッ……」

 そいつの目の前に、今度は先程の魔法と似たような効果のある矢を打ち込む。
 虎はその矢を避けようとして斜めに進んで来るが、強烈な風を横から受けることになり、耐えきれずにその体が宙を舞った。
 ……魔法を使えるようになっていて良かった。
 もし使えなかったら、一頭を吹き飛ばしたところで次が遅れ、もう片方の攻撃を食らうところだった。

「ガッ……グゥゥゥゥ……」
「ガルルルル……」

 しかし双方共に致命傷には至らなかったようだ。
 二頭ともふらつきながらも立ちあがり、俺達を睨んでいる。
 ちっ、呆れた頑丈さだ……いや、今のは俺が拙かったんだろう。
 恐らく魔法を設置する座標が少しずれたのと、十分な気を練れないまま矢を放つことになったのが仕留め切れない原因だ。
 だが、これで敵を前方にまとめることが出来た。
 この状態なら、一頭は仕留めてみせる!

「フッ!」
「ガゥ!」
「なっ!?」

 ところが俺が矢を番えて狙いを定めた瞬間、二頭同時にこちらへと走り出していた。
 くそっ、見た目以上に浅かったか!
 番えた矢には既に刺さった後で内側から破裂するように気が込められており、変更するには時間が足りない。
 地面に撃ち込んだところで、吹き飛ばすどころか怯ませることが出来るかどうかさえ怪しい。
 とどめに、今から魔法を練っても間違いなく間に合わない。
 俺が一人なら避けられないこともないが、後ろにアダーラが居るからそれも出来ない。
 くっ、ならば一頭だけでも……

「“緑の束縛プラントスナッチ”!」
「ッ!?」

 と思っていたら、後ろからの声と共に一頭が蔦に巻かれて動きを止める。
 なら、もう狙うのは一頭しか居ない!

「“身中鉄華インボディー・バースト”!」
「ガァッ!」

 走って来ていた一頭の頭に矢が刺さった瞬間、その頭が大きく震え、ウニの様に鉄の針が飛び出した。
 流石のこいつも、内部から直接中枢をやられれば無事では済まない。
 それを確認すると、俺は剣を手にとって蔦に巻かれている方に向かって駆け出した。

「でやああああああ!」
「ァッ……」

 身動きの取れない相手の横に回り込み、首に向かってカトラスを振り下ろす。
 一瞬脛骨のゴツッとした硬い感触が伝わってくるが、込めていた気を更に強めて押し切る。
 こいつも生物だ。当然首を落とされては生きてはいられない。
 完全に動かなくなったのを確認して、俺は大きく息を吐いた。

「……はぁぁ~……助かったぜ、アダーラ」
「はい! お手伝いできて良かったです!」

 俺が血に塗れたカトラスを紙で拭いながら礼を言うと、アダーラは少しはしゃぐような声で返事をした。
 しかし、あの状況でよくもまあ魔法が練れたものだ。
 パニックを起こすとまともに魔法が使えないはずなんだが、恐怖に呑まれずに実行できたと言うのは素直に評価できる。

「でも、ちょっと甘く見てました……あんな必死なスバルさん、初めて見ましたし」

 と思っていたら、アダーラはそう言って大きく深呼吸をした。
 額には冷や汗が浮かんでおり、今更ながらに恐怖を感じているようだ。
 どうやら、そう言うアダーラの方も今まで必死で、気が抜けた瞬間怖くなったと言うところだろう。

「そりゃ必死にもなる。だってあいつら、どちらかが犠牲になるのを覚悟して、その上で勝ちに来ていたんだからな」

 だが、俺も正直怖かった。
 相手を取り囲むと言う敵の常套手段を崩した後、あの二頭の虎はほぼ捨て身の攻撃を繰り出してきていたのだ。
 本来、こいつらは十頭ほどの群れで狩りをする生物だ。
 そしてそれが人間を相手にするとき、抵抗をする強い人間を倒せば後はどうにでもなることを知っている。
 だからこそ、仲間のために命を捨ててでもそいつを狙う。
 ……死を恐れない相手が、これ程までの恐怖を生むとは思わなかった。
 こいつらの毒も十分怖かったが、それよりもこっちの方が怖い。
 おかげで、護衛対象のはずのアダーラに助けられる羽目になった。
 恐らく、これは人間を相手にした時でも同じことだろう。
 その時に、今回みたいに気の練りが不十分だったり魔法の調整にミスがあったりすれば、良くて相討ち、悪けりゃ自分だけ死ぬと言ったところだ。
 しかし今落ち着いて考えてみれば、更に気を込めてあの矢を強化し、散弾状に針を飛ばす“鋭針散華(ニードルファイアワークス)”に切り替えていれば、足元に打ち込んで二頭同時に足止めすることが出来たはずだ。
 やれやれ、アダーラの心配をする前に、まずは自分の方を何とかしないといけないな。
 あれくらいのことで冷静さを欠いていては、師匠に身の毛もよだつような特訓をさせられたに違いない。

「でも、スバルさんの魔法が見れて良かったです。一人の時って、ああやって魔法を使うんですね」
「言うほど簡単じゃないがな。俺だって微調整出来てないし。まあ、いずれは出来るようになってもらうが」
「はい!」

 俺の言葉に、アダーラは元気いっぱいに返事をする。
 ……返事をしたな。その先は地獄だぞ?
 いや、まあ地獄を見ないように練習をすれば良いのだが、見た方が早いし。
 さ~て、アダーラは何回死ぬかな~?
 そんなことを考えていると、何やら後ろから強烈な気配が。

「…………」

 振り返ってみると、そこには吹雪を身にまとった白く輝く巨大なドラゴンが浮かんでいた。
 新雪のような白い鱗を持つそいつは羽ばたくこともせずに浮遊しており、南極に浮かぶ氷の様な澄んだ冷たい水色の瞳でこちらを見据えている。
 そして、その額に生えている一本の角は、吹雪の中でも一際輝く白銀の光を放っていた。
 ……あ、あれ?
 確かこいつ、ベリスリュムって言うSSランクの相手じゃなかったか?
 AAランクからいきなりこいつって、いくらなんでもおかしくないですかね?

「お、おい、どうなってるんだ? いくらなんでも強さがぶっ飛びすぎだぞ?」
「あ……そ、そう言えば……」

 俺のつぶやきに、アダーラが何か思い出したようにそう口にする。 
 どうやら、まだ何か俺の知らないギミックがこの闘技場にはあるようだ。

「な、何だ?」
「れ、連戦モードって、ごく稀にSSSランクのチャレンジモンスターが出てくるんです」
「え、てことは、あれ名前付き?」
「はい……確か、ディアマンテって名前が付いていたはずです」

 ……マジか。
 ディアマンテって言うと、俺も目にしたことがある名前だ。
 SSSランクのモンスターは、世界最強クラスの種の中の、特に強力だった奴ら。
 そいつらには、それぞれの種によって名前がついているのだ。
 例えば、ばかでかいミミズの様なクロノスワームであれば、「クエイカー」、赤青黄緑の四体で常に行動するでかい蜥蜴の様なエレメントリザードであれば「ジ・エレメンツ」と言ったようにだ。
 つまり、名前付きって言うのはそれぞれの種における上位個体。
 したがって、目の前に居るディアマンテは、ベリスリュムの中でもエリート中のエリートなのだ。
 その名前の由来となっている銀の角は、その証。
 一般的なベリスリュムは角も白いのだが、力が強くなると白銀に変わり、強ければ強いほどその輝きが増す。
 これは決して自然界では珍しいことでは無い。
 有名どころでは、雄ライオンのたてがみにその特徴が見られるのだ。
 力の強いライオンのたてがみは黒っぽくなり、そうでない奴は白っぽくなる。
 これはテストステロンと言うホルモンの性質によるものであり、戦いに勝利することで多く分泌されるらしい。
 つまり、たてがみの色を見ればそのライオンの強さが分かるのだ。
 それと同じことが起きているのだとすれば、目の前の白龍は歴戦の兵と言うことになる。

「…………」

 目の前の白龍から、凍えるような冷たい風が流れてくる。
 ディアマンテと言うのは、俺達の世界で言えばイタリア語やスペイン語でのダイヤモンドのこと。
 その名前通りに相手の角は光り輝き、その光に照らされた雪がダイヤモンドダストとなって周囲を取り巻いている。
 この闘技場で呼び出された以上、この圧倒的強者との敵対は避けられず、逃げることは許されない。

「ど、どうしましょう……」

 その圧倒的な存在感を前に、アダーラが俺に抱きついて震える。
 正直、俺だって逃げたいです。
 けど、どうしても逃げられない訳でして。

「やるっきゃ、ないだろ」

 俺はカトラスを握りしめ、大きく息を吐いた。





* * * * *

 ま~た、変な修業を思いついたスバル君。
 一方、巻き込まれたアダーラさんは大はしゃぎだった模様。

 なお、今回割とサクサク戦闘が進んでいますが、これはスバル君のレベルがだいぶ上がっているです。
 だって、普段からスバル君は今回のAランクを縛りプレイでクリアしている輩ですからね。
 逆に言うと、今回少し苦戦した赤虎二頭がどれだけヤバい敵だったのかと言うのが分かりますね。
 それでも戦闘時間が短かったのは、実際に狩りに長い時間を掛ける野生動物がどれだけ居るかって言うことを考えていただければ幸いです。

 ついでに、モンスター側のSSSランクの基準も判明です。
 はい、これであの英雄と幼馴染共がどれだけヤバいのかが分かると思います。

 では、ご意見ご感想お待ちしております。
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